大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成2年(ワ)6021号 判決

アメリカ合衆国テキサス州ウェイコ ノース ヴァレー ミルズ ドライブ二五二四

原告

ポール・ジェイ・マイヤー

アメリカ合衆国テキサス州ウェイコ レイク ショア ドライブ四五一五

原告

サクセス・モティベーション・インターナショナル インコーポレーテッド

右代表者社長

ジョー・イー・バクスター・シニア

東京都港区麻布台三丁目五番五-一二〇一号

原告

ピー・ジェイ・エムジャパン株式会社

右代表者代表取締役

有田平

原告三名訴訟代理人弁護士

牛島信

右同

田村幸太郎

右同

田邊護

右同

小野吉則

右同

荒関哲也

右同

濵辺陽一郎

右同

片山昭人

右同

池袋真実

右同

権田光洋

右同

牛嶋龍之介

右訴訟復代理人弁護士

渡邉康

右同

石鍋毅

右同

長瀬博

東京都新宿区西新宿六丁目六番三号

被告

株式会社エス・エス・アイ

右代表者代表取締役

田中米藏

東京都世田谷区船橋六丁目一七番六号

田中孝顕こと

被告

田中米藏

被告両名訴訟代理人弁護士

江尻隆

右同

汐崎浩正

右訴訟復代理人弁護士

橋本健

右同

山田善一

右同

三森仁

主文

一  被告らは、別紙虚偽事実目録記載の趣旨の事実を広告し、右事実を記載した書籍若しくは雑誌を発行し、右事実を記載した文書を配付、送付若しくは展示し、又は、右事実を口頭で伝達し、陳述又は流布してはならない。

二  被告らは各自、原告ポール・ジェイ・マイヤーに対し金一三〇万円、原告サクセス・モティベーション・インターナショナル・インコーポレーテッドに対し金六五万円、原告ピー・ジェイ・エムジャパン株式会社に対し金一三〇万円及び各金員に対する平成二年九月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用はこれを二分し、その一を被告らの、その余を原告らの負担とする。

五  この判決の第二項は仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、別紙(一)記載の謝罪広告を株式会社ダイヤモンドセールス編集企画発行の雑誌「セールスマネジャー」に、別紙(二)記載の謝罪広告を株式会社日経ビーピー発行の雑誌「日経ベンチャー」に、別紙(三)記載の謝罪広告を訪販ニュース及び日本経済新聞全国版に各一回ずつ掲載せよ。

2  主文一項同旨

3  被告らは各自、原告ら各自に対し、金一〇〇〇万円及びこれに対する平成元年八月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は被告らの負担とする。

5  3項、4項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  不正競争防止法に基づく請求

(一) 原告らと被告らとの競争関係

(1) 原告らの商品

原告らが日本において販売している商品は、原告ポール・ジェイ・マイヤー(以下「原告マイヤー」という。)が開発した自己啓発のためのプログラムである。現在、原告らが日本で販売している主要なSMIプログラムは、「パーソナルモティベーションの力」(英文表題"Dynamics of Personal Motivation")(以下「DPMプログラム」という。)と題するプログラム、「パーソナル・サクセス・プランナー」(英文表題"Personal Success Planner")(以下「PSPプログラム」という。)と題するプログラム及び「時間経営-タイム・マネジメント」(英文表題"Dynamics of Time Management")と題するプログラム(以下、これらの主要なプログラムを総称して「SMIプログラム」という。)である。

これらは、いずれも自己啓発のための体系化された理論と方法を習得し、実践するために、原告マイヤーによって開発された自己啓発プログラムであり、カセット・テープ、バインダーに綴じた「マニュアル」(カセット・テープの反訳が印刷されたもの)及び行動計画(利用者が「マニュアル」等により習得したものを自ら実践する際の指針となるべきものとして自己分析をしながら書き込んで完成させることが予定された印刷物)を組み合わせて、携帯用のアタッシュ・ケースに収めてセットとした商品である。これらの商品は、日本において、「ピージェイエム・ジャパンのニュー・サクセス・モティベーション・プログラム」又は「ピージェイエム・ジャパンの新しいSMIプログラム」などと総称されて、日本全国で一セット二八万五〇〇〇円から五七万七〇〇〇円の価格で販売されている。

(2) 原告ら及びこれに関連する法人等

(ア) 原告マイヤーは米国人であり、SMIプログラムの著作権者である。

(イ) 原告サクセス・モティベーション・インターナショナル・インク(以下「原告SMII」という。)は、一九七九年に原告マイヤーが設立した米国テキサス州法人であり、英語版の各種SMIプログラムを各国語に翻訳して米国外において販売する会社である。原告マイヤーは、同社の取締役会会長の地位にある。

(ウ) 原告ピー・ジェイ・エムジャパン株式会社(以下「原告PJMJ」という。)は、日本において、原告SMIIからSMIプログラムを販売する独占的な権利を与えられた総代理店である。同社は、SMIプログラムを日本語に翻訳し、これを日本全国の代理店に卸売りして、各代理店を通じて利用者に販売している。

(エ) 原告マイヤー、原告SMII及び原告PJMJは、以上のとおり、日本において、共同してSMIプログラムの販売を業として行っている者である。

(オ) 原告マイヤーが、一九六〇年に設立したサクセス・モティベーション・インスティテュート・インク及びサクセス・モティベーション・インク(以下、両者を総称して「SMI」という。)のうち、前者は、一九七九年にSMI・インターナショナル・インクに商号変更した。その後、同社は、一九九〇年に会社組織の再編の結果、SMI・ユーエスエイ・インクと商号変更し、各種のSMIプログラムを米国内で製造、販売する子会社の持株会社となっている。

(カ) 原告マイヤー及び原告SMIIは、一九八四年以降、原告PJMJを日本における総代理店としてSMIプログラムの販売を行っているが、それ以前にも一九六四年から、サクセス・モティベーション・インスティチュート・オブ・ジャパン有限会社(以下「SMIJ」という。)を通じて、日本において以下に述べる旧SMIプログラムの販売を行っていた。すなわち、SMIJが販売していたプログラムは、現在原告らが販売している商品とは異なるもので、「旧DPMプログラム」、「YPSPプログラム」、「カンパニー・プログラム」及び「成功への実践計画」であった(以下、これらを総称して「旧SMIプログラム」という。)。これらの商品は一九八四年以降販売されていない。

(3) 被告らの商品及び販売方法

(ア) 被告らの商品

被告らが日本において販売している商品のうち、ナポレオン・ヒルプログラムと称して販売している商品は、「PMAプログラム」(英文表題"Program of Positive Mental Attitude")、「HSSプログラム」(英文表題"Hill & Stone's Success Science Program")、「CTPプログラム」(英文表題"Career Tracking Program")及び「SDPプログラム」(英文表題"Success Dynamics Program")が主なものである。

右各プログラムは、自己啓発に関するカセット・テープ、ビデオ・テープ、バインダーに綴じた印刷物(カセット・テープ又はビデオ・テープの反訳を印刷したものと利用者が自らの計画などを書き込んで完成されることが予定された「ゴールデン・ゴールデックス」や「ストレス・マネジメント・マニュアル」と題する印刷物を含む。)、バインダー入りのカード、楯、システム・ノートなどを組み合わせて携帯用のアタッシュ・ケースに収めてセットとした商品である。

これらの商品は、米国のナポレオン・ヒル財団(以下「NRF」という。)及びその他の団体が著作権を有するナポレオン・ヒル(以下、単に「ヒル」ということがある。)、W・クレメント・ストーン(以下「ストーン」という。)、ジミー・カラノ等の米国では別個独立に販売されている書籍、印刷物、カセット・テープ、ビデオ・テープ等の商品を、被告らが日本語に翻訳してセットとして組み合わせるとともに、さらに、被告らが独自に作成したものを付け加えることによって、一九八九年から一九九〇年にかけて「ナポレオン・ヒル・プログラム」として商品化したものである。これらは、一セット四八万円から一四七万円の価格で日本全国で販売されている。

(イ) 被告らの商品の販売方法

被告らの「ナポレオン・ヒル・プログラム」の販売方法は、被告田中米藏(以下「被告田中」という。)が代表取締役を務める株式会社騎虎書房が発行する雑誌、書籍等に付した折込み葉書を返送してきた見込客を中心として直接販売する方法と、代理店を募集し、代理店に「ナポレオン・ヒル・プログラム」を卸売りし、これら代理店を通じて、「ナポレオン・ヒル・プログラム」を利用者に販売する方法をとっている。代理店を通じた販売は、平成元年三月から被告株式会社エス・エス・アイ(以下「被告SSI」という。)単独で、平成三年二月から株式会社ナポレオン・ヒル・事業団(現在は株式会社エス・エス・アイ・インターナショナルに商号変更)と共同して行っている。

(4) 被告ら及びこれに関連する団体

(ア) 被告SSIは、「ナポレオン・ヒル財団日本ディヴィジョン」、「ナポレオン・ヒル財団日本E.D.」、「ナポレオン・ヒル財団日本リソーセス」などという名称を使って、「ナポレオン・ヒル・プログラム」を販売している。

(イ) 被告田中は、昭和四〇年代後半に、SMIJの代理店の一つであったサクセス・アンリミテッド・ジャパン及び昭和五〇年代後半にSMIJの代理店の一つであったサクセス・セラーズ東京で、旧SMIプログラムの販売に従事していた者であるが、昭和六一年三月から被告SSIの代表取締役、平成三年二月から株式会社ナポレオン・ヒル事業団の代表取締役をそれぞれ務めている。また、被告田中は、「ナポレオン・ヒル・プログラム」を販売するに当たり、「ナポレオン・ヒル財団日本ディヴィジョン理事長」、「ナポレオン・ヒル財団日本E.D.理事長」、「ナポレオン・ヒル財団日本リソーセス理事長」などと自称している。

(5) 以上のとおり、原告らと被告らはともに、自己啓発に関するカセット・テープ、印刷物等を組み合わせてセットとし、携帯用のアタッシュ・ケースに入れたセット商品を、ほぼ同様の価格帯で、代理店を通じて日本全国において販売しており、同種の商品を同様の営業方法で共通する地域で販売しているものであって、競合する見込客及び商品卸先の代理店の獲得をめぐり、まさに競争関係にある。

(二) 被告らの陳述流布行為

(1) 月刊誌「セールス」における被告らの陳述流布行為

(ア) 被告らは、株式会社ダイヤモンドセールス編集企画が発行した月刊誌「セールス」の一九八九年六月号(以下「本件『セールス』」という。)に、「自分の可能性を信じたい人のための自己変革プログラム

あの“ナポレオン・ヒル”をあなたも日本に広げてみないか」と題された記事広告を掲載したが(甲第二号証)、その中には、「二〇数年前から日本では、このPMAプログラムを元にした、ポール・J・マイヤーのSMIプログラムがあるが、今回のプログラムがその本家本元である。SMIは、現在ナポレオン・ヒル財団の理事長であるM・クレメント・ストーンがマイヤー氏に資金提供して、ヒル博士の思想を普及させようとして創設されたものである。」との記載がある(右記載内容を、以下「セールス記事広告」という。)。

(イ) 被告SSIは、右記事広告の末尾のナポレオン・ヒル財団日本ディヴィジョンの名称、住所、電話番号を削除した別刷りに、本件セールスの表紙をつけ、裏表紙に「この小冊子は、(株)ダイヤモンド社「月刊セールス一九八九年六月号」から抜粋したものです。」との説明やナポレオン・ヒル財団日本ディヴィジョンの名称を付した小冊子を約一〇〇〇部印刷し、原告PJMJの約三五の代理店や販売加盟店募集の広告に応募して来た加盟店希望者に送付し、あるいは、書籍の折込み葉書きを直送した者等の見込客に送付した。

(2) 月刊誌「日経ベンチャー」における被告らの陳述流布行為

被告らは、株式会社日経ピーピーが発行した月刊誌「日経ベンチャー」の一九九〇年九月号(以下「本件『日経ベンチャー』」という。)に、「成功を意識させ眠っているモチベーションを呼び起こす」と題された記事広告を掲載したが(甲第三一号証の一ないし四)、その中には、「オグ・マンディーノも、他の類似のプログラムはこのナポレオン・ヒル・プログラムが土台となっている、と述べている。事実、日本でもヤル気と成功に関する類似プログラムとしてSMIプログラムと称するものがあるが、これもヒル博士の成功哲学の普及からスタートし、現在の中心的プログラム(DHPプログラム)も、そのもととなったアイディアはナポレオン・ヒル・プログラムからきている。このようにナポレオン・ヒル・プログラムは様々な亜流を生み出しつつ発展してきた。」との記載がある(右記載内容を、以下「ベンチャー記事広告」という。)。

(三) セールス記事広告及びベンチャー記事広告が虚偽であること

被告らのセールス記事広告及びベンチャー記事広告の内容は、大きく、〈1〉ストーンが原告マイヤーにSMIの創設資金を提供したとの事実(以下「SMIの創設資金に関する事実」という。)、〈2〉SMIはヒルの思想を普及させる目的で創設されたとの事実(以下「SMIの創設目的に関する事実」という。)、〈3〉原告らの商品であるSMIプログラムが、日本で被告らによって販売されている「PMAプログラム」又は「ナポレオン・ヒル・プログラム」を元にして作られたとの事実(以下「SMIプログラムの開発過程に関する事実」という。)の三つに分けられる。しかし、右〈1〉、〈2〉、〈3〉の事実は、いずれも虚偽の事実である。

(1) SMIの創設資金に関する事実

(ア) 原告マイヤーが一九六〇年にSMIの事業活動を開始した際に設立した会社は、同年二月一〇日に設立したサクセス・モティベーション・インスティテュート・インク及び同年五月二日に設立したサクセス・モティベーション・インクの二社である。右二社の設立時の資本金各一〇〇〇米ドルは、いずれも原告マイヤーの自己資金であり、ストーンから右二社のいずれかについてもその設立資金の提供を受けたという事実は全くない。したがって、ストーンが、原告マイヤーにSMIの創設資金を提供したというのは、全くの虚偽である。

(イ) 被告らは、SMIが設立直後のまだ細々と営業を行っていた倒産一歩手前の状況で、ストーンが手形の裏書をして、SMIが倒産を免れたので、ストーンがSMIの創設資金を提供したといえ、そのようにいっても虚偽ではないと主張したいようである。

しかし、原告マイヤーが、SMIの資金取得に関し、ストーンから助力を得たのは、一九六二年にリパブリック・バンクから五万五〇〇〇ドルの融資を受けた際、同銀行に紹介されたこと、及び一九六五年にアメリカン・ナショナル・バンクから二〇万ドルの融資を受けた際、同銀行を紹介され、手形に裏書してもらったことの二回だけであるが、これらはいずれも設立直後のことではない。

サクセス・モティベーション・インスティテュート・インクの一九六〇年の従業員は五名であったが、一九六一年には二〇名となり、一九六二年には五〇名となり、また売上げも一九六〇年には約一一万ドル、一九六一年には約五一万ドル、一九六二年には約七五万ドル、一九六三年には約一一〇万ドルと成長を遂げ、最初の三年間で大きなオフィスを求めて三回も引越ししており、SMIは順調に事業を拡張していったのであり、当時倒産一歩手前の状況であったということは全くない。右二回の融資も、自己啓発事業の有望性についてテキサス地方の銀行には理解してもらえなかったため、事業拡張資金の融資が受けられず、ストーンの助力を受けたということに過ぎない。

(2) SMIの創設目的に関する事実

(ア) 原告マイヤーがSMIを設立した目的は、原告マイヤーが、会社設立以前から考えていたSMIプログラムのような自己啓発のための総合的な商品を、会社の事業活動を通じて完成、発展させて販売するためであり、ヒルの思想を普及するためでは全くなかった。したがって、SMIが、ヒルの思想を普及する目的で創設されたというのは、全くの虚偽である。

原告がいうプログラムとは、コース・プログラムのことである。コース・プログラムとは、単なる書籍の形で自己啓発の方法を示しただけのものではなく、体系化されたテキスト、レコード若しくはテープと自己の目標を書き込む行動計画表等を総合的に組み合わせたもので、「聞く」、「読む」、「書く」という複数の感覚を何回も繰り返して刺激することによって、その内容を体得できるとともに、自己の書き込んだ行動計画に従って学習の成果を実践できるように構成されたプログラムのことをいう。原告マイヤーは、SMI設立以前から、自分自身の思想をコース・プログラム化することを考えていたのである。

被告らは、ヒルがこの種のプログラムの元祖であるかのような宣伝方法をとっているが、ヒルのプログラムは、マイヤーが開発したようなコース・プログラムという形での商品化には、今日に至るまで一度たりとも成功しておらず、現実にはヒル自身も一九三〇年代から一九六〇年頃にかけて何度もコース・プログラム化を試みたもののようであるが、全て失敗しており、更には米国においてヒル以外の者がヒルの思想を右のとおり商品化しようとしたことがあるものの、いずれもSMIに匹敵する成功をおさめることができなかったというのが真実である。被告らがナポレオン・ヒル・プログラムと称している一九二八年のいわゆる初期プログラム及び一九六〇年に完成したPMAプログラムは、実は、単に書籍若しくはそのレコードの形で売られているに過ぎないものである。

(イ) 被告らは、〈1〉SMIの最初の商品が"Think and Grow Rich"の要約を朗読したレコードであるので、SMIはヒルの思想の普及から事業活動を開始したといえること、〈2〉ストーンが原告マイヤーに手形を裏書して銀行を紹介したのも原告マイヤーをしてヒルの思想を普及させるためであったこと、からSMIの創設目的がヒルの思想の普及のためであったといっても虚偽とはいえないと主張したいようである。

しかし、〈1〉についていえば、原告マイヤーは、右会社を設立した当初の時点において、SMIプログラムの開発を進めるとともに、他方で、当時既に出版されていたヒル、アール・ナイチンゲール、ミラード・ベネットなど多数の自己啓発に関する書籍の要約を吹き込んだレコードにその台本を小冊子としたものを付けて「成功のSMIレコードライブラリー」と名付けてシリーズとして次々と販売するなど、数多くの自己啓発に関する出版物の販売に携わっていた。SMIの最初の製品が"Think and Grow Rich"を要約して朗読したレコードとなったのは、原告マイヤーが他のレコードも販売すべく交渉を続けていたところ、たまたま当時"Think and Grow Rich"の著作権を有していたコンバインド・レジストリー・カンパニーが親交のあったストーンの会社であったこともあり、最初に契約を締結することができたためにすぎない。

右のヒルの著作物の要約版のレコードとは、アール・ナイチンゲールが原稿を作成、朗読したものに、朗読部分を印刷したほぼA5版程度の大きさの一三頁の小冊子を付した三〇センチLPレコード一枚(当初の価格四ドル九五セント)という極めて簡易なものであって、原告マイヤー、SMIがその後開発、製造、販売してきた各種のコース・プログラムとは、その規模においても全く比較にならないものである。その後、現在に至るまで、SMIは様々な著者にかかる自己啓発書の要約版のカセット・テープを販売してきたが、ヒルの前記著作物の要約版は、SMIがサクセス・オーディオ・ライブラリーとして一本一〇ドルで販売してきた八五種類のテープの中の一本として最近まで加えられていたに過ぎず(甲第三五号証)、SMIの売上中に占める割合が微々たるものであることはもちろん、右サクセス・オーディオ・ライブラリーのカセット・テープの売上中に占める割合も僅少なものであり、このヒルの著作物の要約版のレコードの販売が、原告マイヤー、SMIの事業にとって重要な位置を占めていたと評価することさえできないものであり、まして、SMIがヒルの思想を普及するため創設されたなどと評価することができないことは当然である。

また、〈2〉については、ストーンがSMIの資金取得に関し助力した一九六二年及び一九六五年においては、同人は、NHFと何の関係もなく、ストーンの助力がヒルの思想の普及のためであったということはない。すなわち、NHFは、ヒルが一九六一年にストーンとの論争により、それまでの同人との関係を解消した後の一九六二年にヒル夫人及びシドニー・N・ブレーマーとともに設立したものであり、ストーンがNHFと関係するようになったのは、ヒルが亡くなり(一九七〇年)、更にヒルの未亡人も亡くなった一九八二年以降のことである。むしろ、ストーンは、SMIの資金取得に助力した当時、「サクセス・アンリミテッド」という自己啓発に関する雑誌の発行人であり、自己啓発の事業に関心を持っていたため、原告マイヤーの事業の有望性に着目し、原告マイヤーに融資先を紹介し、あるいは手形の裏書の見返りとしてSMIの一〇パーセントの株式を取得し、SMIの株主及び取締役になるなどしていたというのが事実である。

(3) SMIの開発過程に関する事実

(ア) 原告マイヤーは、一九六〇年にサクセス・モティベーション・インスティテユート・インクを設立する以前から、人生における成功哲学に関心を持っており、一九歳の頃から保険のセールスマンとして働きながら、成功哲学に関する多くの著作物に接するとともに、成功のための基本原則を自ら作成し、実践したり、これを他人に勧めたりしていた。そして、その実践の過程で、二七歳で億万長者になるなど、保険のセールスマンとしても顕著な業績を挙げていた。ところが、原告マイヤーは、一九五八年、勤務していた保険会社の事業が停止されるという事態に遭遇したことや、ビル・ヒンソン牧師らの助言を受けたことを契機として、SMIプログラムのような成功哲学に関する商品を販売するために会社を設立しようと決意した。そして、レコードの販売会社に勤務して会社設立のための知識と経験を蓄えた後、原告マイヤーは、前記のとおりサクセス・モティベーション・インスティテユート・インク及びサクセス・モティベーション・インクを設立し、多くの協力者の協力を得ながら、SMIプログラムを開発し、長年にわたって発展させていったものであり、SMIプログラムに説かれている成功の思想がナポレオン・ヒル・プログラムに説かれている成功の思想をそのまま利用して開発されたという事実は何ら存在しない。

そもそも、最初のSMIプログラムである"Your Personal Success Planner"が米国において販売されたのは、一九六三年のことであるが、原告らはその当時、米国において、被告らが日本で販売している「PMAプログラム」あるいは「ナポレオン・ヒル・プログラム」と同一性が認められるような商品を知らない。

よって、SMIプログラムが、日本で被告らによって販売されている「PMAプログラム」あるいは「ナポレオン・ヒル・プログラム」を元にして作られたというのは、全くの虚偽である。

(イ) 被告らは、被告らが日本で販売している「ナポレオン・ヒル・プログラム」のうちの「PMAプログラム」は、一九二八年に初版が発行された"Law of Success"がその初期プログラム、一九三七年初版発行の"Think and Grow Rich"は、その改訂版、一九五三年に"Law of Success"の名称を"PAM Science of Success"に変え、一九六〇年に更にこれが改訂されたという関係にあるので(以下、"Law of Success"、"Think and Grow Rich"、PMA Science of Success"の三つを総称して「前身書籍」という。)、SMIプログラムがPMAプログラムを元にして販売されたか否かを判断するに当たり、右前身書籍とSMIプログラムとを比較することは意味があると主張したいようである。

しかし、被告らがセールス記事広告及びベンチャー記事広告において宣伝広告している商品は、被告らが日本で宣伝販売している商品である「ナポレオン・ヒル・プログラム」又は「PMAプログラム」であるから、右各記事広告を見た読者は、被告らがSMIプログラムの元となったと述べている「ナポレオン・ヒル・プログラム」又は「PMAプログラム」も右広告の対象である被告らが日本で販売している商品と同一性を有する商品を意味すると理解することは当然である。ところが、右前身書籍はいずれも単なる書籍に過ぎないから同一性を有する商品ではないし、加えて、各書籍において、他の書籍の改訂版であるなどの記載は全くないのであるから、SMIプログラムを前身書籍と比較することは全く無意味である。

また、前身書籍とSMIプログラムとを形態及び内容となっている思想の面から比較しても「元にして作られた」などとはいえない。

SMIプログラムは、現在、カセット・テープとバインダーに綴じた印刷物(カセット・テープの反訳及び行動計画)を組み合わせて携帯用のアタッシュ・ケースに収めてセットとした商品であり、一九六三年当時から、一七枚のレコードと三冊のバインダーに綴じた印刷物(レコードの反訳と行動計画を含む。)であった。これに対し、前身書籍は、いずれも書籍の形態で出版されたものであり、SMIプログラムの商品形態がナポレオン・ヒル・プログラムの商品形態をそのまま利用して開発されたということはあり得ない。

更に、DPMプログラムと前身書籍に説かれている内容、思想を比較しても、DPMプログラムが前身書籍を元にして作られたとはいえない。すなわち、DPMプログラムは、そこに説かれている概念をプログラムの利用者が順次段階を追って容易に理解し、実際に活用できるように構成されており、その中心的手段として自分自身の行動計画を作成することがプログラムに組み込まれており、究極的には、人生の六分野で目標を達成できるトータル・パーソンを目指すように構成されている。これに対し、前身書籍は、「金持ちになるという成功」について必要な原則を単純に並べたものに過ぎない。被告らは、「成功に必要な要素」として比較した二三の要素がSMIプログラムとナポレオン・ヒル・プログラムにおいて共通であるなどと主張するが、右二三の要素とはそれぞれのプログラムからどのような基準で抽出されたものであるか全く不明である。また、被告田中の供述するところから判断すると、被告らは"Law of Success"以前には体系的な成功に関する思想というものはなかったので、SMIプログラムに説かれている成功の思想はヒルの成功の思想をそのまま利用して開発したと主張したいようであるが、前身書籍のそれぞれが体系的(被告田中の供述によれば、体系的とは段階を追って成功の原理を述べているということである。)といえるか疑問である上に、"Law of Success"で説かれている一六の原則、"Think and Grow Rich"で説かれている一三の原則、"PMA Science of Success"で説かれている一七の原則の並べ方はどれも異なっている。

(四) 原告らの営業上の信用を害することについて

(1) SMIの創設資金及び創設目的に関する記載について

セールス記事広告中の「SMIは、現在ナポレオン・ヒル財団の理事長であるM・クレメント・ストーンがマイヤー氏に資金提供して、ヒル博士の思想を普及させようとして創設されたものである。」という部分は、SMIプログラムを販売する代理店の人々並びにSMIプログラムのユーザー及び見込客に対して、〈1〉ヒルの思想の普及を目的とするNHFの理事長のストーンが原告マイヤーに資金を提供し、それが原告マイヤーのSMIを創設する際の資金となったかのような印象、〈2〉原告マイヤーがSMIを創設した目的がNHFと同様にヒルの思想を普及させることであったかのような印象を与える。

これらは、いずれも、原告らの営業主体としての経歴に消極的な評価を与えることによって、原告らの営業上の信用を害するものである。

しかも、これらの記載は、SMIが事業を開始した出発点であるSMI創設時のことを述べることによって、原告らの信用の基礎となった営業能力及び資産などで、原告らがその後日本で長年にわたる営業活動の実績によって築き上げてきたものも、被告らと同一視できるかのごとく記載されているNHFの援助、指導などによるもので、それに派生するかのような印象を与える。これによって、NHF及び被告らを積極的に評価すると同時に、原告らの評価を減殺することとなる。

(2) SMIプログラムの開発経過に関する記載について

セールス記事広告中の「二〇数年前から日本では、このPMAプログラムを元にした、ポール・J・マイヤーのSMIプログラムがあるが、今回のプログラムがその本家本元である。」との部分及びベンチャー記事広告中の「オグ・マンディーノも、他の類似のプログラムはこのナポレオン・ヒル・プログラムが土台となっている、と述べている。事実、日本でもヤル気と成功に関する類似プログラムとしてSMIプログラムと称するものがあるが、これもヒル博士の成功哲学の普及からスタートし、現在の中心的プログラム(DHPプログラム)も、そのもととなったアイディアはナポレオン・ヒル・プログラムからきている。このようにナポレオン・ヒル・プログラムは様々な亜流を生み出しつつ発展してきた。」という部分は、いずれも、SMIプログラムを販売する代理店の人々並びにSMIプログラムのユーザー及び見込客に対して、SMIプログラムがナポレオン・ヒル・プログラムを真似て開発されたもの、すなわち、SMIプログラムの商品形態及びそこに説かれている成功の思想がナポレオン・ヒル・プログラムのそれを利用して開発されたものに過ぎないとの印象を与える。

この記載は、原告らの商品であるSMIプログラムの開発方法に消極的な評価を与えることによって、原告らの営業上の信用を害する。

この種の商品では、商品の評価を決定する際に、成功の思想の創案者自身又はその直系の者が開発し、開発後の改良なども創案者又はその直系の者によってなされたものの方が優れているとの漠然とした認識が前提となっている。したがって、右記載は、SMIプログラムを販売する代理店の人々、SMIプログラムのユーザー及び見込客に対して、「ナポレオン・ヒル・プログラム」が優れたものであると同時に、SMIプログラムがそれより劣るものであるという印象を抱かせることになる。

更に、右記載は、SMIプログラムが「ナポレオン・ヒル・プログラム」の表現の一部をそのまま剽窃した、すなわち著作権を侵害しているとの印象をも与えるものであり、この点でも原告らの営業上の信用を害するものであることは明らかである。

(3) 自己啓発プログラムの特殊性

自己啓発プログラムの特殊性として、SMIプログラムの創案者である原告マイヤーの人格的評価というものがSMIプログラムの評価に大きく関係している。そして、原告マイヤーの人格的評価に対する高い社会的評価が代理店の人々に販売組織への確固たる信頼感をもたらしている。したがって、右信頼感に否定的影響を与える右記載は、原告らの営業上の信用に致命的な悪影響を及ぼしている。

(4) 実際、セールス記事広告及びベンチャー記事広告が掲載されたことにより、SMIプログラムを販売する全国の五〇店を下らない代理店に、SMIプログラムのユーザー及び見込客から、右各記事広告の真偽を確認する問合わせがあった。更に、右各記事広告の記載により不安を感じ、返品、契約の解除、契約締結の取り止めをするSMIユーザー及び見込客も数十件に及び、不安を感じた二店の代理店がSMIプログラムの販売を止めた。

(五) 被告らが将来も営業誹謗行為を行う可能性

被告らは、現在、原告らが差止めを求める内容の虚偽の事実を広告等の態様により陳述することを止めている。

しかし、被告らは、現在も原告らと競争関係にあることは変わりなく、現在においても右事実が虚偽であること自体を争っている上、次のとおり、原告らに対する不当な攻撃を継続しているなどの事情に鑑みれば、被告らが本件同様の営業誹謗行為を再び行う虞れがある。

すなわち、被告らは、本件訴訟係属中においても、原告PJMJにしばしばファックス送信をしてきているが、その中で、被告田中は、「さて、私の対SMI防衛計画は一九九一年から一〇年間、つまり二〇〇〇年までと決めました。これは確定的なもので、嘘、偽りはございません。つまり、冗談ではない、かつ半端ではないということです。」と述べ、本法廷においても、現在これと同じ気持ちを持ち続けていると断言している。

また、甲第六一号証では、和解が成立しない場合には、被告SSIの系列会社で被告田中が代表取締役を務める騎虎書房を通じて、同社発行の書籍、雑誌など各種の印刷物において、原告らを誹謗する記事を掲載し、又は掲載し続けることを示している。

(六) 故意、過失

セールス記事広告については、被告田中が前田孝夫(以下「前田」という。)に「ナポレオン・ヒル・プログラムがSMIプログラムの元祖であって、ナポレオン・ヒル財団の理事長クレメント・ストーンからマイヤーが資金援助を受けて、元祖の思想を広めるためにマイヤーはSMIを創設させてもらった」と虚偽の事実を述べて原稿を書かせ、原稿の内容を確認して記事広告とすることを承諾したものであるし、ベンチャー記事広告については、被告田中が自ら福本高明(以下「福本」という。)の書いた原稿に加筆し、原稿内容を確認して、記事広告として雑誌に掲載することを承諾したものであり、被告らが故意によりこれらの行為をしたことは明らかである。たとえ、被告らに故意がなかったとしても、被告田中は記事広告の掲載を依頼し、原稿の内容を確認して訂正を求めることができる立場にあったのであるから、少なくとも被告らに過失があったことは明らかである。

(七) 損害

(1) 逸失利益

SMIの日本における総売上げは、昭和六〇年約二七億円、昭和六一年約三八億円、昭和六二年約四一億円、昭和六三年約四五億円、平成元年約六一億円、平成二年約八一億円と順調に伸びてきたが、被告らの本件営業誹謗行為に起因する影響が徐々に現われ始め、しかも、一度低下した信用の回復には日々の営業活動による持続的な努力と一定の日時が必要であるため、平成三年は約七八億円、平成四年は約六一億円にとどまり、原告らは重大な損害を受けた。仮に、被告らの前記営業誹謗行為がなければ、少なくとも平成三年には約一〇二億円、平成四年には約一二八億円の総売上げが見込まれ、原告らの純利益率は約四・九パーセントであるから、原告らには各自四億五〇〇〇万円の逸失利益が生じている。そして、本件営業誹謗行為以外の被告らの営業誹謗行為によるものなど若干の不確定要因を考慮して、右の五割を実損害とみても、原告ら各自の逸失利益による損害は少なくとも二億二五〇〇万円である。

(2) 無形損害

原告らの商品であるSMIプログラムは、日本において二〇年以上販売されており、その創案者であり、かつその販売組織の創設者である原告マイヤーに対する人格的評価とともに高い社会的評価を受けてきたのであるが、被告らの本件営業誹謗行為により、原告マイヤーに対する評価が大きく貶められた。前記のとおり、原告マイヤーの人格的価値に対する社会的評価は、原告らの商品であるSMIプログラム自体の価値に対する評価に大きく影響するばかりでなく、SMIプログラムの販売員の販売組織に対する信頼感にも大きく影響するものであり、本件営業誹謗行為により原告らが被った無形の損害は計り知れない。その損害額は、原告各自金八〇〇万円を下らない。

(3) 弁護士費用、調査費用等

原告らは、牛島法律事務所に本件訴訟を委任し、裁判所に提出する証拠を作成するなどのために第三者に調査、鑑定を依頼し、その間、代理店、ユーザー及び見込客に事情を説明するために通信費、会場設営費などの出費を強いられるなどしており、本件訴訟のために要した弁護士費用、調査費用、鑑定費用、信用回復のための費用などは、原告ら各自金二〇〇万円を下らない。

(八) 謝罪広告の必要性

被告らの本件営業誹謗行為は、前記のとおり原告らの営業上の信用にとって極めて重大な虚偽の事実を陳述流布したものであり、またその態様も全国的に多数販売されている雑誌に記事広告の形態により虚偽事実を掲載したなど、被告らの行為が原告らの営業上の信用に与えた影響は計り知れない。また、前記のとおり、原告マイヤーの人格的価値に対する社会的評価がSMIプログラム自体の評価に大きく影響し、SMIプログラムの販売員の販売組織に対する信頼感に大きく影響するところ、本件営業誹謗行為により原告マイヤーに対する信用、評価が大きく貶められ、原告らの営業上の信用は致命的に低下した。右のような営業上の信用低下を回復させるためには、損害賠償のみでは到底足りず、請求の趣旨1項のとおりの謝罪広告が必要である。

なお、株式会社ダイヤモンドセールス編集企画が発行する雑誌「セールス」は一九九二年一月から同社発行の月刊誌「セールスマネージャー」に発展的に統合されたので、同誌に謝罪広告を掲載させる必要がある。

2  民法に基づく請求

(一) 被告らの陳述流布行為が原告らの名誉を毀損することについて

(1) SMIの創設資金及び創設目的に関する記載

セールス記事広告には、SMIの設立資金及び設立目的に関して、〈1〉ストーンが原告マイヤーにSMIの創設資金を提供したとの事実、〈2〉原告マイヤーがSMIをヒルの思想を普及させる目的で創設したとの事実が述べられているが、これを流布した被告らの行為は、原告らの名誉を毀損する行為でもある。

すなわち、これらの記載は、原告マイヤーが現在の競争業者から資金提供を受けて、その思想を普及する目的でSMIを創設したものであり、SMIが現在の競争業者から派生した会社であるとの印象を世人に与えるものであり、原告らがこれまでに獲得してきた高い社会的な評価を低下させるものであるから、原告らの名誉を毀損するものである。

(2) SMIの開発過程に関する記載

セールス記事広告及びベンチャー記事広告には、SMIプログラムの開発過程に関し、いずれも、原告マイヤーが日本で販売されているPMAプログラム又はナポレオン・ヒル・プログラムを元にしてSMIプログラムを作ったとの事実が述べられているが、これを流布した被告らの行為は、原告らの名誉を毀損する行為である。

すなわち、SMIプログラムは、原告マイヤーにより創案され、SMIにより販売されてきたものとして、原告マイヤー及びSMIともども高い社会的評価を得ているが、右記載は、原告マイヤーが現在の競争業者の商品形態、思想、表現を剽窃してSMIプログラムを開発し、SMIがこれを販売してきたものであるとの印象を世人に与え、原告らの社会的評価を低下させるものである。

(二) その他の名誉毀損の要件

被告らの故意、過失、原告らの損害、謝罪広告の必要性についての原告らの主張は、不正競争防止法に基づく前記請求についての主張と同様であるから、これらの主張を援用する。

3  よって、原告らは、被告らに対し、主位的に本件口頭弁論終結当時施行の、平成五年法律第四七号による改正前の不正競争防止法一条一項六号、一条の二第一項、第四項に基づいて、請求の趣旨1項記載の謝罪広告、請求の趣旨2項の虚偽の事実の陳述流布の差止め、損害賠償金の内請求の趣旨3項記載の金員及びこれに対する不正競争行為の日の後である平成元年八月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを、予備的に民法七〇九条、七二三条に基づいて、請求の趣旨1項記載の謝罪広告、請求の趣旨3項記載の損害賠償請求金の内金及びこれに対する前記の期間の民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを、それぞれ求める。

二  請求原因に対する認否

1(一)  請求原因1(一)(1)のうち、原告PJMJがSMIプログラムの日本語版を「ピージェイエム・ジャパンのニュー・サクセス・モティベーション・プログラム」又は「ピージェイエム・ジャパンの新しいSMIプログラム」等と称して日本において一セット二八万五〇〇〇円から五七万七〇〇〇円の価格で販売していることは認める。SMIプログラムを原告マイヤーが開発したとの主張については、原告マイヤーが、自己啓発のための体系化された理論と方法を習得、実践するための商品として、カセット・テープ、バインダーに綴じたマニュアル及び行動計画を組み合わせて、携帯用のアタッシュ・ケースに収めてセットとした商品を開発したことは認めるが、原告マイヤーが、SMIプログラムにおいて表現されている自己啓発のための体系化された理論と方法という思想を創作したことは否認する。

同(2)(ア)のうち、原告マイヤーが米国人であることは認め、SMIプログラムの著作権者であることは否認する。前記のとおり、原告マイヤーは、SMIプログラムにおいて表現されている自己啓発のための体系化された理論と方法という思想を創作したものではない。同(2)(イ)第一文のうち、原告SMIIが、一九七九年に原告マイヤーが設立した米国テキサス州法人であることは認め、英語版の各種SMIプログラムを各国語に翻訳して米国外において販売する会社であるという点については、販売先となる米国外の国が、ラテンアメリカ、カナダ、ヨーロッパ、オーストラリア、アフリカである限りにおいて認める。乙第八八号証の原告SMIIの説明箇所によれば、同社は日本においては営業部門を有していない。第二文は認める。同(2)(ウ)は認める。同(2)(エ)は否認する。日本においてSMIプログラムの販売を業として行っているのは、原告PJMJのみである。同(2)(オ)は認める。同(2)(カ)第一文のうち、一九六四年からSMIJが、日本において旧SMIプログラムの販売を行っていたことは認めるが、原告マイヤー及び原告SMIIが販売を行つていたとの点は否認する。

同(3)(ア)第一、二文のうち、被告SSIが日本において、「PMAプログラム」、「HSSプログラム」及び「コンプリート・プログラム」を「ナポレオン・ヒル・プログラム」と総称して販売していることは認め、その余は否認する。「SDPプログラム」及び「リピート・プログラム」は、NHFが推奨しているプログラムである。第三文のうち、これらの商品が、米国のNHF及びその他の団体が著作権を有するヒル、ストーン等の著作物である書籍、印刷物、カセット・テープ、ビデオ・テープ等の商品を被告SSIが日本語に翻訳してセットとして組み合わせるとともに、被告SSIがNHFと共同して作成したものを付け加えることによって、一九八九年から一九九〇年にかけて「ナポレオン・ヒル・プログラム」として商品化したものであることは認め、ヒル及びストーン等の著作物が米国において書籍、印刷物、カセット・テープ及びビデオ・テープとして各商品ごとに別個独立に販売されていることは否認する。ヒル及びストーン等の著作物は、全て各商品ごとに別個独立に販売されているわけではなく、各商品が様々に組み合わされ、セットになって販売されている場合もある。例えば、甲第七三号証によれば、シンク・アンド・グロウ・リッチ・プログラムの一つである当該教材には、ビデオ・テープ、反訳と学習ガイド、オーディオ・カセット、暗記用要約カード、アクション・ノートブックが含まれている。なお、被告SSIがヒル及びストーン等の著作物を組み合わせ、また、被告SSIがNHFと共同して作成したものを付け加えることについて、被告SSIはNHF等の許諾を得ている。同(3)(イ)は認める。

同(4)(ア)は認める。同(4)(イ)の第一文は認める。第二文について、被告田中は、ナポレオン・ヒル・プログラムを販売するに当たり、現に「ナポレオン・ヒル財団日本ディヴィジョン理事長」、「ナポレオン・ヒル財団日本E、D、理事長」、「ナポレオン・ヒル財団日本リソーセス理事長」の職にあったのであり、自称していたのではない。

同(5)のうち、原告PJMJと被告SSIが競争関係にあることは認め、その余は否認ないし争う。

(二)  請求原因1(二)(1)(ア)、(2)の事実は認める。

(三)  請求原因1(三)の冒頭のうち、〈1〉、〈2〉、〈3〉の事実が虚偽であることは否認する。同(1)(ア)第一、二文は認め、第三文は否認する。同(1)(イ)は否認する。同(2)(ア)第一文のうち、原告マイヤーがSMIを設立した目的は、原告マイヤーが自己啓発のための綜合的な商品を、会社の事業活動を通じて、完成、発展させて販売するためであったことは認め、その余は否認する。同(2)(イ)は否認する。同(3)(ア)、(イ)は否認する。

(四)  請求原因1(四)(1)のうち、第一文は認め、その余は否認する。原告らの主張する記事は、全体として誤ったものではないから、原告らの営業上の信用を害するものとはいえない。ヒルの著作物は、自己啓発書の祖として世界中で絶大な信頼を受けており、このヒルの思想を普及する目的で設立されたということは、自己啓発のビジネスを行う会社にとってプラスになりこそすれ、マイナスになることはない。同(2)第一文のうち、原告の主張する記事が、SMIプログラムを販売する代理店の人々並びにSMIプログラムのユーザー及び見込客に対し、SMIプログラムがナポレオン・ヒル・プログラムを土台にして開発されたもの、すなわち、SMIプログラムに説かれている成功の思想がナポレオン・ヒル・プログラムのそれを元にして開発されたものとの印象を与えるとの点は認めるが、SMIプログラムがナポレオン・ヒル・プログラムの真似で、SMIプログラムの商品形態がナポレオン・ヒル・プログラムのそれを利用して開発されたとの印象を与えるとの点は否認する。第二ないし第五文は否認する。この種の商品の評価を決定するのは、商品形態及び成功思想の創案者自身か否かということよりも、当該自己啓発書等のプログラムによりいかに著名な人が影響を受けているかという効果についての実証である。また、本件記事を公正な目で読むならば、セールス記事についていえば、SMIは現在ナポレオン・ヒル財団の理事長であるストーンが原告マイヤーに資金提供して、ヒル博士の思想を普及させようとして創設されたという前記事実がある以上、SMIプログラムがナポレオン・ヒル・プログラムの著作権を侵害しているとの印象を読者に与えるはずがない。原告らは、原告SMIIその他の関連会社が、現に、NHFの許諾を得ずにナポレオン・ヒル・プログラムの一つを構成する「シンク・アンド・グロウ・リッチ」を外国語に翻訳して販売したり、「シンク・アンド・グロウ・リッチ」のカセット・テープにSMIIが著作権を有している旨の表記をしてきたこと等から生じる後ろめたさ等から、右のように記事を曲解するに過ぎない。ベンチャー記事広告についても、SMIプログラムはヒル博士の成功哲学の普及からスタートしたという前提があり、著作権侵害の印象を与えると考えること自体おかしいのである。また、ナポレオン・ヒルは、極めて著名な自己啓発の著者であること、業界においては、SMIプログラムがもともとナポレオン・ヒルから派生したものであるということは常識であったことからすれば、右各記事により原告らの営業上の信用が害されるおそれはない。同(3)第一文は否認する。第二文は知らない。第三文は否認する。自己啓発プログラムの評価においては、それを利用した人々が社会的に成功を収めているかというプログラム自身の性能、効率が最も大切である。SMIプログラムにおいては、多くの自己啓発書の著者の著作を商品化しているため、原告マイヤーの人格的評価がSMIプログラムの評価に大きく関係することはない。同(4)は否認する。原告の主張するように返品、契約の解除等があったのであれば、通常、売買契約書、契約解除通知書、代理店契約解除通知書、返品された現物等を証拠として提出できるはずであるのに、このような通常提出できるはずの証拠は提出されていない。

(五)  請求原因1(五)第一文は認める。第二文のうち、現在被告SSIと原告PJMJとが競争関係にあること、現在セールス記事広告及びベンチャー記事広告に記載された事実が虚偽であることについて争っていることは認め、その余は否認する。第四文は認める。

(六)  請求原因1(六)第一文のうち、セールス記事広告について、被告田中が前田に対し、SMIプログラムはナポレオン・ヒル・プログラムが元となっており、ナポレオン・ヒル財団の理事長クレメント・ストーンから原告マイヤーが資金援助を受けて、ナポレオン・ヒルの思想を広めるためSMIは設立されたという趣旨のことを述べ、これを基に前田が原稿を書き、被告田中が記事広告として掲載することを承諾したこと、ベンチャー記事広告について、被告田中が記事広告として雑誌に掲載することを承諾したことは認め、その余は否認する。第三文のうち、被告田中が原稿の内容を確認して、訂正を求めることができる立場にあったことは認め、その余は否認する。

(七)  請求原因(七)(1)は否認する。週刊ダイヤモンド(乙第六〇号証の一ないし四)によれば、平成元年から平成四年にかけての原告PJMJの申告所得の額は年々増加している。損害の有無及び額については原告らに立証責任があるところ、原告らはその主張するように売上高が減少したにもかかわらず、右のように申告所得額が増加した理由について説明すべきであるが、その説明はなく、原告らは損害についての十分な立証をしていない。また、そもそも、原告らは総売上げの差額により逸失利益の立証をしようとしているが、市場の状況如何により、その差額が常に侵害行為と因果関係があるとは限らないから、このような安易な立証が許されないことはいうまでもない。同(2)は否認する。同(3)は知らない。

(八)  請求原因(八)は否認する。

「セールスマネージャー」は創刊三〇年になる月刊誌であり、株式会社ダイヤモンド社において、セールスマン個人向けの月刊誌である「セールス」に対し、営業部門の管理職等、マネージャー向けの月刊誌として位置づけられていたものである。したがって、「セールス」が「セールスマネージャー」に統合されるといっても、統合後の「セールスマネージャー」と統合前の「セールス」とは販売層において著しい相違がある。このように異なる媒体に謝罪広告を掲載する場合には、毀損された営業上の信用の回復に必要かつ十分か否か慎重に検討されるべきであり、原告らが別紙(一)で求めているような、被告らに対し苦痛となり、被告らの信用を著しく害するような内容の謝罪広告を「セールスマネージャー」に掲載することは、到底認められない。

2  請求原因2(一)(1)は否認する。原告マイヤーが現在の競争業者から資金援助を受けたことは明らかである。また、SMIがナポレオン・ヒルの思想を普及する目的で設立されたとする点は、ナポレオン・ヒルの自己啓発分野における権威を考えれば、SMIの社会的評価を高めこそすれ、低めるものではない。同(一)(2)は否認する。SMIプログラムの中心的な思想は、ナポレオン・ヒルの「ロー・オブ・サクセス」及び「シンク・アンド・グロウ・リッチ」にあり、二〇数年前から日本で流通しているSMIプログラムは、一九二八年に体系化が完成したナポレオン・ヒル財団のPMAプログラム(一九八八年全面改訂)を元にしているというのは事実である。また、商品形態についても、原告マイヤーは台本付きのレコードを最初に発売したのは原告マイヤーであると主張したいようであるが、台本付きレコードについては、ナイチンゲール・コナント社も同様の商品を同時期に販売しており、また、ナポレオン・ヒルのローズ・オブ・サクセスをオープンリールのテープに録音したものも同時期に存在していたことからすれば、原告マイヤーが台本付きレコードを独自に開発したとは到底いえず、現在のSMIプログラムの商品形態も原告マイヤーが独自に開発したものではなく、時代の流れ、技術の進歩、競業者間の競争の中で改訂されていったものに他ならない。

請求原因2(二)についての認否は、1(六)ないし(八)についての認否と同様である。

3  請求原因3は争う。

三  被告らの主張

1  セールス記事広告の内容が虚偽でないことについて

(一) SMIの創設資金に関する事実

(1) セールス記事広告のうち、「SMIは、現在ナポレオン・ヒル財団の理事長であるM・クレメント・ストーンがマイヤー氏に資金提供して、・・・創設されたものである。」との部分は、〈1〉ストーンは、現在ナポレオン・ヒル財団の理事長であること、〈2〉ストーンが原告マイヤーに資金提供したこと、〈3〉ストーンが原告マイヤーに資金提供した結果SMIが創設されたことに分析できる。

(2) 右〈1〉については当事者間に争いがなく(但し、「M・クレメント・ストーン」は「W・クレメント・ストーン」の誤植と思われる。)、甲第三六号証からも明らかな事実である。

(3) 右〈2〉については、なるほどストーンが原告マイヤーに対し、直接自ら資金を貸し付けたという明白は証拠は、今となっては存しない。

しかしながら、一九六二年、ストーンは、原告マイヤーに、リパブリック・バンクの上級副社長オーレン・カイトを紹介し、リパブリック・バンクから五万五〇〇〇ドルの融資を受けられるよう便宜を図ったこと、一九六五年には、ストーンはマイヤーに、アメリカン・ナショナル・バンクから二〇万ドルの融資が受けられるようにマイヤーの手形に裏書をするなど便宜を図ったことは、乙第一号証ないし乙第三号証から明らかである。

そして、右融資の当時、マイヤーは地方銀行その他の金融機関を通じて、事業拡張資金の融資を受けようとしたが、融資を受けられずにいたところ、当時世界最大の傷害保険会社アメリカ・コンバインド保険会社の社長であったストーンから右のような協力を得て、右銀行から融資を受けられたのである。

したがって、右融資についていえば、ストーンの協力がなければ受けられなかったことは明らかであり、「ストーンがマイヤー氏に資金提供した」という部分は虚偽とまで断ずることはできない。むしろ、ストーンが裏書等によりリスクも負担していることを考えると、ストーンがマイヤーに資金提供したものと評価することは至極当然のことであり、逆に、ストーンの多大な助力に対する恩恵を忘れ去り、資金「提供」という言葉尻に拘泥して、資金提供を受けたという本質を否定しようとする原告らの態度は許されるべきではない。

(4) 次に、〈3〉の「ストーンがマイヤーに資金提供した結果SMIが創設されたこと」についても、一九六〇年にマイヤーが自己資金により設立したサクセス・モティベーション・インスティテュート・インク及びサクセス・モティベーション・インクの二社の設立時の資金は各一〇〇〇米ドルに過ぎなかったのに対し、ストーンの協力により得た融資金の額は一九六二年に五万五〇〇〇ドル、一九六五年には二〇万ドルと右資本金の実に五五倍、二〇〇倍もの金額であること、右融資金によりマイヤーの事業は一層拡張されたといえること、右の融資を受ける前においては、SMIは地方銀行その他の金融機関から融資を受けることができず、資金繰りに困窮していたこと等からすれば、SMIが実質的に銀行からも信用を与えられるような企業に成長したのは、ストーンによる融資への協力があった後なのであり、この意味において、「ストーンがマイヤーに資金提供した結果SMIが創設された」ということも虚偽とまでいうことはできない。

(二) SMIの創設目的に関する事実について

原告マイヤーは、ヒルの思想に少なからず共鳴しており、マイヤーがサクセス・ライブラリーを始めたのは、まさに「サクセス・アンリミテッド」がきっかけだったと、一九五九年一〇月号のナポレオン・ヒル・アソシエイツ著作の月刊雑誌「サクセス・アンリミテッド」におけるインタビューに答えている(乙第四号証)。

そしてまた、右サクセス・アンリミテッドでのインタビュー直後の一九六〇年二月にサクセス・モティベーション・インスティテュート・インクを、同年五月にサクセス・モティベーション・インクを設立していること、SMIの最初の製品がヒルが著した「シンク・アンド・グロウ・リッチ」の要約を朗読したレコードであったこと、SMIは一貫してヒルの著作物を自己の商品として扱っていること(乙第四五号証、乙第三七号証、乙第九〇号証)等からすれば、SMIの唯一の創設目的がヒルの思想を普及させる点にあったとまでは言えないとしても、少なくともヒルの思想に強い共感を覚えていたマイヤーが、多くの自己啓発書を書いた人々の中で、特にヒルを重んじ、ヒルの思想を普及することによって自己のビジネスを拡大しようと考えていたことは明らかであり、SMIが「ヒル博士の思想を普及させようとして創設された」とするセールス記事広告には、一部不正確な表現が含まれるものの、必ずしも虚偽とまでは評価できない。

(三) SMIプログラムの開発過程に関する事実について

(1) 「二〇数年前から日本では、このPMAプログラムを元にした、ポール・J・マイヤーのSMIプログラムがある」という箇所が事実か否かが問題なのであるが、セールス記事広告全体の文脈からすれば、この「PMAプログラム」とは、一九二八年に体系化が完成した「ロー・オブ・サクセス」及びこの発展形態であるナポレオン・ヒル財団の著作物のことである。また「ポール・J・マイヤーのSMIプログラム」とは、二〇数年前から日本で販売されているものであるから、旧SMIプログラム及びSMIプログラムを指す。

(2) 哲学の共通性

そこで、新旧SMIプログラムが「ロー・オブ・サクセス」及びその発展形態を元にしているか否かが問題となる。

この点について、原告らはことさらに「プログラム」なる言葉の部分に焦点をあて、商品形態及び思想の体系の点において元にしていないと主張したいようである。しかし、元にしているという言葉は、商品形態や思想の体系性に限って使われるものではなく、セールス記事広告の「ヒル博士の『成功の哲学』」、「肝心の中身」等の記載からすると、セールス記事広告の「元にし」ているという表現は思想自体が元になっていることを示していると解釈するのが普通である。

そこで、「ロー・オブ・サクセス」及びその発展形態である「シンク・アンド・グロウ・リッチ」等から、ナポレオン・ヒルの成功の哲学思想を抽出すると、「充分な信念をもって信じ-そして、自己の信仰と一致した行動をするだけで、自分の成りたいと思う何者にもなりえる。」、「人が心に思い描き、信じることが出来るものは何であれなしえる。」という、まさに「シンク・アンド・グロウ・リッチ」がヒルの哲学の核心といえる(乙第八号証、甲第八四号証)。

他方、新旧SMIプログラムの哲学について検討すると、これもやはり、「鮮やかに想像し、熱烈に望み、心から信じ、魂をこめた熱意をもって行動すれば、何事も必ず実現する。」(乙第九一号証)、「自分の目標へ向かって、自分自身を駆り立てる」パーソナル・モティベーション(甲第二四号証)、「アイデアは行動に変えることができ、夢は現実に変えることができる」(甲第二四号証、牧師万代恒雄のコメント)というにあり、結局は「シンク・アンド・グロウ・リッチ」と同じ哲学なのである。

そして、SMIプログラムが最初にできたのは一九六〇年であり、ヒルの自己啓発書は、「ロー・オブ・サクセス」が一九二八年に、傑作といわれる「シンク・アンド・グロウ・リッチ」が一九三七年に発行されており、原告マイヤーがヒルの著作物にアクセスできたことは明らかである。しかも、原告マイヤーによる最初の商品は、ヒルの「シンク・アンド・グロウ・リッチ」をレコードにして売ることであった。更に、原告マイヤー自身も、自分の人生に大きな影響を与えた人として、父、義父に次いでヒルを挙げているのである(乙第四号証)。

このような状況にあって、なぜ、SMIプログラムの哲学が、PMAプログラムの哲学を元にしていると言えないのであろうか。

(3) 商品形態及び思想の体系性について

一九二八年の「ロー・オブ・サクセス」及び一九三七年の「シンク・アンド・グロウ・リッチ」の商品としての形態が書籍であることは争いがないが、被告らは、商品形態においてSMIプログラムがPMAプログラムを元にしていると主張しているのではない。

また、プログラムという言葉は、「目録、番組、予定、計画表」(広辞苑)という意味をなすに過ぎず、原告らが主張するような高度な形態を備える必要はない。ヒルが著した「ロー・オブ・サクセス」もレッスン形式で、順序だって学んでいく形式になっており(甲第八五号証)、また「ロー・オブ・サクセス」の発展形態である「PMAサイエンスオブサクセス」も各レッスンごとに学ぶ形式の教材であり(甲第八三号証)、これらをプログラムと呼ぶことについて、何ら非難を受ける筋合いのものではない。

2  ベンチャー記事広告の内容が虚偽でないことについて

(一) 「オグ・マンディーノも、他の類似のプログラムはこのナポレオン・ヒル・プログラムが土台となっている、と述べている」との点については、「プログラム」という言葉の使い方は別として、乙第一九号証の二から事実であることは明らかである。

(二) 「日本でもヤル気と成功に関する類似プログラムとしてSMIプログラムと称するものがあるが、これもヒル博士の成功哲学の普及からスタートし」たことについては、原告マイヤーの最初の製品が、ヒルの「シンク・アンド・グロウ・リッチ」を台本付きレコードとして販売することであったことよりすれば、紛れもない事実である。

(三) 「現在の中心的プログラム(DHPプログラム)も、その元となったアイデアはナポレオン・ヒル・プログラムから来ている。このようにナポレオン・ヒル・プログラムは様々な亜流を生み出しつつ発展してきた。」との点については、アイデア即ち原理が焦点となっていることがより明確になっているが、SMIプログラムの哲学が、ヒルの哲学を元にしていることは前述のように明らかであるから、右の点も何ら虚偽ということはできない。

(四) 原告マイヤーの本人尋問において、プラン・オブ・アクションを自己の思想の中心として挙げるが、目標設定と行動計画は、ナポレオン・ヒル財団の「成功の科学」にも取り入れられており(乙第九四号証)、何ら特別なものではない。原告マイヤーが一九六〇年代前半に原告ストーンから二〇万ドルの資金借入れについて協力した際、原告マイヤーはストーンから目標設定と行動計画を持ってくるよう指示を受けている(乙第四号証)。

(五) 原告らは、自己啓発の分野において、ナポレオン・ヒルの先駆者が多く存していることから、ヒルが自己啓発における開拓者ではないと主張しているが、被告らはもともとヒルが自己啓発の開発者であると主張するつもりは毛頭ない。ヒルが自己啓発の分野における原理、哲学を約二〇年間かけて体系化し、原告マイヤーがこれに大きな影響を受けたと主張しているだけである。

3  故意、過失について

(一) 被告らは、セールス記事広告及びベンチャー記事広告の内容が虚偽であるとは考えないが、仮に虚偽であるとしても、当時においては、右各記事広告の内容はいわば業界の常識であったのであり、また、被告らは前述したような資料に基づいて事実と判断しているのであって、故意がないことはもちろんのこと、本件記事広告の内容が事実であると考えることについて相当な理由がある。

(二) 虚偽事実の陳述、流布についての注意義務違反の有無、程度については、陳述、流布に至る経緯のほか、陳述、流布の方法、態様、事実と虚偽との乖離の程度等に鑑みて判断されなければならない。〈1〉陳述、流布の方法について言えば、セールス記事広告及びベンチャー記事広告は、いずれも明らかに被告SSIの広告であるから、被告SSIに有利に書かれているものであると考えるのが当然であり、ある意味では眉唾物として読む性格のものである。一般的に虚偽事実の陳述、流布の方法として挙げられるのは、相手方の取引先等に特許権等の権利侵害の事実を直接通知し、取引をしないよう申し出ることであるが、右各記事広告による陳述、流布がこのように競業者の営業を直接的に妨害する方法に当たらないことは明らかである。〈2〉また、事実と虚偽との乖離性の程度についても、前述したように若干表現に適切でない点があるにせよ、全体として事実と考えられるのであり、注意義務に違反するとまではいえないことは明らかである。

4  謝罪広告の必要性について

(一) 仮に、セールス記事広告又はベンチャー記事広告の内容が虚偽であり、かつ、被告らに過失があるとしても、前記のとおり、右各記事広告と事実との乖離は極めて小さいから、被告らの過失の程度は軽微である。

また、右各記事広告が刊行される以前の平成元年三月一六日には、SMIプログラムはナポレオン・ヒル・プログラムを元に作られたとの趣旨の記事が訪問販売業界の業界紙である訪販ニュースに掲載されており、訪販ニュースが平成元年当時、販売部数二万三〇〇〇部を誇る業界大手の情報紙であることに鑑みれば、SMIプログラムを元に作られたということは業界において広く知られており、その意味で、右各記事広告の内容に虚偽とされる部分が仮にあったとしても、原告らの信用に対して与えた影響はごく軽微なものである。

そうすると、「被告らにとって重いペナルティーとなる謝罪広告は認められるべきではない。

(二) 仮に、謝罪広告の必要性が認められるとしても、謝罪広告は加害者に対して苦痛となり、その信用を害することにもなるので、その許否、その方法、内容、範囲は全て被害者の信用回復に必要な程度にとどめなければならない。

(1) したがって、原告らの信用を毀損したとされる表現の形式と謝罪広告の表現形式との均衡が要求されるところ、前記各記事広告が掲載された媒体は月刊誌で、販売部数も少ないのであるから(原告らは、「セールス」については月約五万部、「日経ベンチャー」は月約六万八〇〇〇部が発行されていると主張するが、原告PJMJ代表者有田平の伝聞供述を基にした何ら根拠のない数字である。)、販売部数も比較にならないほど多く、権威の高いメディアであることが明らかな日本経済新聞に謝罪広告を掲載することは均衡を欠き、到底認められるべきものではない。

また、各記事広告の問題の部分は、「セールス」においては八行一五六文字、「日経ベンチャー」においても一六行二〇六文字であり、当該広告全体の中のほんの一部分に過ぎないことからすれば、謝罪広告も同程度の分量とされなければならない。

(2) また、原告らの製品、営業を宣伝する文章を挿入することは妥当ではなく、別紙謝罪広告(一)の三一、三二行目、同(二)の二四、二五行目、同(三)の四二、四三行目のいずれも「もとより、マイヤー氏は長年に亘る我国における実績からも、数多くの書籍、雑誌等で取り扱われ、高い社会的評価を受けてきております。」との箇所は認められるべきものではない。

(3) また、将来違法行為を行わない旨の誓約も、原告らの信用回復のためには何ら必要のないものであり、別紙(一)、(二)、(三)のうちの「私共は今後、絶対に、虚偽の事実を陳述したり、誤解を招く表現を含む文書を流布したりすることはしないことを誓う」との部分を謝罪広告に含めることは許されない。

第三  証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  原告らと被告らとの競争関係

1  原告PJMJと被告SSIとが競争関係にあることは当事者間に争いがない。

2(一)  次の(1)、(2)の事実も当事者間に争いがない。

(1) 原告マイヤーが、米国人であり、自己啓発のための体系化された理論と方法を習得、実践するための商品として、カセット・テープ、バインダーに綴じたマニュアル及び行動計画を組み合わせて、携帯用のアタッシュ・ケースに収めてセットにした商品を開発したこと、原告SMIIは、原告マイヤーが一九七七年に設立した米国テキサス州法人であり、英語版の各種SMIプログラムを各国語に翻訳して、ラテンアメリカ、カナダ、ヨーロッパ、オーストラリア、アフリカにおいて販売する会社であること、原告PJMJは、日本において、原告SMIIからSMIプログラムを販売する独占的な権利を与えられた総代理店であること、原告PJMJは、SMIプログラムを日本語に翻訳し、これを日本全国の代理店に卸売りして、各代理店を通じて利用者に販売していること。

(2) 被告田中は、昭和四〇年代後半に、SMIJの代理店の一つであったサクセス・アンリミテッド・ジャパン及び昭和五〇年代後半にSMIJの代理店の一つであったサクセス・セラーズ東京で、旧SMIプログラムの販売に従事していた者であり、昭和六一年三月から被告SSIの代表取締役、平成三年二月から株式会社ナポレオン・ヒル・事業団(現在は株式会社エス・エス・アイ・インターナショナルに商号変更)の代表取締役をそれぞれ務めていること、被告SSIが日本において、PMAプログラム、HSSプログラム及びコンプリート・プログラムをナポレオン・ヒル・プログラムと総称して販売していること、これらの商品は、米国のNHF及びその他の団体が著作権を有するヒル、ストーン等の著作物である書籍、印刷物、カセット・テープ、ビデオ・テープ等の商品を被告SSIが日本語に翻訳してセットとして組み合わせるとともに、被告SSIがNHFと共同して作成したものを付け加えることによって、一九八九年から一九九〇年にかけてナポレオン・ヒル・プログラムとして商品化したものであること、被告らのナポレオン・ヒル・プログラムの販売方法は、被告田中が代表取締役を務める株式会社騎虎書房が発行する雑誌、書籍等に付した折込み葉書を返送してきた見込客を中心として直接販売する方法と、代理店を募集し、代理店にナポレオン・ヒル・プログラムを卸売りし、これら代理店を通じてナポレオン・ヒル・プログラムを利用者に販売する方法をとっていること、右代理店を通じた販売は、平成元年三月から被告SSI単独で、平成三年二月から株式会社ナポレオン・ヒル・事業団と共同して行っていること。

(二)  成立に争いのない乙第二六号証、乙第二七号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第二一号証ないし乙第二五号証及び被告代表者尋問の結果によれば、被告SSIの販売するナポレオン・ヒル・プログラムは、いずれも成功のための自己啓発を目的としたものであることが認められる。

(三)  右(一)の争いのない事実及び(二)認定の事実によれば、原告マイヤー、原告SMIIと被告ら、原告PJMJと被告田中とはいずれも競争関係にあるものと認められる。

二  被告らの陳述流布行為

次の1、2の事実は当事者間に争いがなく、3の事実は、被告らが明らかに争わないから自白したものとみなす。

1  被告らは、株式会社ダイヤモンドセールス編集企画が発行した月刊誌「セールス」の一九八九年六月号に、「自分の可能性を信じたい人のための自己変革プログラムあの″ナポレオン・ヒル″をあなたも日本に広げてみないか」と題された記事広告を掲載したが(甲第二号証)、その中には、「二〇数年前から日本では、このPMAプログラムを元にした、ポール・J・マイヤーのSMIプログラムがあるが、今回のプログラムがその本家本元である。SMIは、現在ナポレオン・ヒル財団の理事長であるM・クレメント・ストーンがマイヤー氏に資金提供して、ヒル博士の思想を普及させようとして創設されたものである。」との記載があること(セールス記事広告)。

2  被告らは、株式会社日経ビーピーが発行した月刊誌「日経ベンチャー」の一九九〇年九月号に、「成功を意識させ眠っているモチベーションを呼び起こす」と題された記事広告を掲載したが(甲第三一号証の一ないし四)、その中には、「オグ・マンディーノも、他の類似のプログラムはこのナポレオン・ヒル・プログラムが土台となっている、と述べている。事実、日本でもヤル気と成功に関する類似プログラムとしてSMIプログラムと称するものがあるが、これもヒル博士の成功哲学の普及からスタートし、現在の中心的プログラム(DHPプログラム)も、そのもととなったアイディアはナポレオン・ヒル・プログラムからきている。このようにナポレオン・ヒル・プログラムは様々な亜流を生み出しつつ発展してきた。」との記載があること(ベンチャー記事広告)。

3  被告SSIは、右記事広告の末尾のナポレオン・ヒル財団日本ディヴィジョンの名称、住所、電話番号を削除した別刷りに、本件セールスの表紙をつけ、裏表紙に「この小冊子は(株)ダイヤモンド社「月刊セールス一九八九年六月号」から抜粋したものです。」との説明やナポレオン・ヒル財団日本ディヴィジョンの名称を付した小冊子を約一〇〇〇部印刷し、原告PJMJの約三五の代理店や販売加盟店募集の広告に応募して来た加盟店希望者に送付し、あるいは、書籍の折込み葉書きを直送した者等の見込客に送付したこと。

三  セールス記事広告及びベンチャー記事広告の内容が虚偽であるか否か及び営業上の利益を害するか否か

1  原告マイヤーは、SMIの事業活動を開始するに際して、一九六〇年二月一〇日にサクセス・モティベーション・インスティテュート・インクを、同年五月二日にサクセス・モティベーション・インクを設立したが、右二社の設立時の資本金各一〇〇〇米ドルはいずれも原告マイヤーの自己資金により出資されたものであり、ストーンから提供を受けたものでないことは当事者間に争いがない。

2(一)  ヒルの活動と著作等

成立に争いのない甲第七三号証、甲第八四号証、甲第八五号証の一ないし一七、乙第一〇号証、乙第六八号証、乙第七八号証、原告マイヤー本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第三六号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第八号証の一、二、乙第九号証、乙第一一号証によれば、次の事実が認められる。

(1) ナポレオン・ヒルは、一八八三年一〇月二六日に生まれ、新聞記者を経た後、ボブ・テイラーズ・マガジンの記者となり、そこで、成功した人々の話を書く仕事を割り当てられた。ヒルは、一九〇八年、鉄鋼王と呼ばれたアンドリュー・カーネギーにインタビューする機会を与えられたところ、カーネギーはヒルに長時間、成功するための原則について話した後に、ヒルに対し、成功のための哲学を確立する仕事をするように勧めた。ヒルは、この勧めに応じ、カーネギーが紹介してくれた人々を中心として、ヘンリー・フォードやトマス・A・エジソン等約五〇〇人の成功者と呼ばれる人達にインタビューを重ね、その最初の成果を、一九二八年、「ザ・ロー・オブ・サクセス」と題して出版した。

ヒルは、一九三〇年、二冊目の著作「ザ・マジカル・ラッダー・トゥー・サクセス」を著した後、フランクリン・ルーズベルト大統領のスタッフを務め、更に、一九三七年には三冊目の著作「シンク・アンド・グロウ・リッチ」を発表した。この書籍は、世界各国で二〇〇〇万部以上出版され、広く読まれることとなった。

ヒルは、一九四二年、「メンタル・ダイナマイト」と題した全一七巻の学習講座を発表し、短期間ではあるが南部の多くの織物工場で読まれた。ヒルの著作に関心を寄せていた、保険会社コンバインド・インシュランス・カンパニー・オブ・アメリカ社長のストーンは、ヒルの成功哲学を広めるために、ヒルを説得して、一九五二年、ヒルとともにナポレオン・ヒル・アソシエイツを設立した。

ナポレオン・ヒル・アソシエイツは、一九五三年、一七課の家庭学習コースのシリーズ「ザ・サイエンス・オブ・サクセス」(後に、「ザ・ピーエムエー・サイエンス・オブ・サクセス」と改称)の出版を開始した。これはワークブックの形式をとったもので、全米家庭学習審議会により承認を受けた。一九五四年、ナポレオン・ヒル・アソシエイツは、雑誌「サクセス・アンリミテッド」を発行するなどして活動を続け、一九六二年解散した。そして、同年、ヒルの哲学を将来の世代の人々へ普及するために、ヒル夫妻等によりNHFが創設された。なお、この間の一九六〇年、ヒルとストーンの共著である「サクセス・スルー・ア・ポジティブ・メンタル・アティテュード」が出版された。

現在、NHFは、イリノイ州ノースブルックに本部を、コロンビア特別区に支所を有し、ヒルの死後も、書籍を通信販売し、各界の成功者に対し、ナポレオン・ヒル・ゴールドメダルを贈るなどの活動を続けている。理事長はストーンである。

(2) ヒルの最初の著作である「ザ・ロー・オブ・サクセス」においては、成功に関する一六の原則が記されていた。その一六の原則についての各章の表題は、「マスターマインド」、「明確な主要目的」、「自信」、「貯蓄の習慣」、「独創力と統率力」、「想像力」、「熱中」、「自己制御」、「代償以上のことをする習慣」、「好ましい性格」、「的確な思考」、「集中力」、「協力」、「失敗」、「忍耐力」、「黄金律」となっている。

「シンク・アンド・グロウ・リッチ」は、成功のための原則を記した一五の章からなり、各章の表題及び副題は、「思考は物体である-トーマス・A・エジソンとパートナーシップを組む方法を『考えついた』男」、「願望-すべての達成の出発点」、「信念-願望達成の視覚化と信念」、「自己暗示-潜在意識に働きかける方法」、「専門知識-個人的な経験又は観察」、「想像力-心の作業場」、「計画の組織化-願望の行動への結晶化」、「決断力-優柔不断の克服」、「忍耐力-信念を起こすに必要な持続された努力」、「マスターマインドの力-推進力」、「性衝動の転換の神秘」、「潜在意識-連結環」、「頭脳-思考の放送・受信局」、「第六感-英知の殿堂への扉」、「恐怖の六つの幻影」となっている。そこで述べられている、基本的な考え方は、成功するために必要なことは、出発点としての欲望とそれに基づいて定められた目標そして目標達成のための組織化された計画と持続的な努力ということである。

ヒルの著作物は、現在、NHFから、書籍のほかカセット・テープやビデオ・テープの形式で販売されている。

(二)  原告マイヤー及びSMIの活動と著作等

前記乙第六八号証、成立に争いのない甲第七号証ないし甲第九号証、甲第一七号証ないし甲第一九号証、乙第一号証ないし乙第四号証、乙第三九号証、乙第四五号証、乙第九〇号証の一の一ないし一三、乙第九〇号証の二の一ないし六、乙第九〇号証の三の一ないし九、乙第九〇号証の四の一ないし四、乙第九〇号証の五、乙第九〇号証の六、原告マイヤー本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第五二号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第二四号証、甲第三五号証、甲第三九号証、甲第八一号証、甲第八二号証の一、二、弁論の全趣旨により原本の存在及び成立が認められる甲第六七号証の一ないし三並びに原告マイヤー本人尋問の結果によれば、次の事実が認められる。

(1) 原告マイヤーは、一九二八年に生まれ、一九四九年から一九五八年にかけて生命保険の外交員として勤務し、優れた成績を上げたが、この間、成功の哲学についても関心を持ち、ナポレオン・ヒルの「シンク・アンド・グロウ・リッチ」を含む自己啓発書を五〇冊以上読み、自己啓発について思考をすすめ、その経験から自己啓発に関する出版等の仕事に携わることを考えるようになり、一九五八年から一九六〇年にかけてテキサス州ウェイコのレコード会社ワード・レコード・インクに勤務してレコード・セールスについての経験を積んだ。その後、一九六〇年、自己啓発に関する出版等の事業を行う目的でSMIを設立した。SMIの最初の事業として、原告マイヤーは、自己啓発に関する書籍の内容を要約したレコードを販売する企画を立てた。

ところで、原告マイヤーは若い頃、シカゴに本社のある当時世界最大の傷害保険会社であったコンバインド・インシュアランス・カンパニー・オブ・アメリカの社長であるストーンに憧れ、ストーンに会いたいと思っていたが、たまたまストーンが講演のためにホテルに滞在していることを聞き、ウェイターを装ってストーンに面会することに成功し、これにより、原告マイヤーはストーンを知る機会を得た。このような経緯から、ストーンは原告マイヤーを知るようになり、前記ナポレオン・ヒル・アソシエイツが発行する雑誌「サクセス・アンリミテッド」の一九五九年一〇月号では、当時、ワード社でレコード出版の業務に携わっていた原告マイヤーを、「シンク・アンド・グロウ・リッチ」の読者として、写真入りで四頁余にわたり紹介している。その中で、原告マイヤーがインタビューに応じ、自分の心の中にはナポレオン・ヒルの言葉が深く焼き付けられていると述べ、自分が影響を受けた人として、父、義父の次にナポレオン・ヒルを挙げている。

SMIは、一九六〇年五月、ストーンが所有するコンバインド・レジストリー社との間でヒルの著作物である「シンク・アンド・グロウ・リッチ」についてのレコーディングに関する契約を締結することができ、そのレコードがSMIの最初の製品となった。

その後、原告マイヤーは、SMIの事業として、ベン・スウィートランド、エルマー・ウェラー、ビル・ヘイズ、ミラード・ベネット、モナ・リング、ドン・マソン、J・マーティン・コー、アール・ナイチンゲール等多数の著者の自己啓発に関する図書の要約版のレコード出版等の事業を順調に進め、原告マイヤー自身の著作にかかる二種類のレコードも販売し、一九六二年、SMIの事業を拡張するための融資を受けるため地元ウェイコの金融機関との折衝を重ねたが、書籍の要約をレコード化して販売する等の事業内容の有望性についての十分な理解が得られず、資金繰りは難航した。

そこで、原告マイヤーは、ストーンに相談したところ、ストーンは、リパブリック・バンクの副社長に原告マイヤーを紹介し、その結果、SMIは同銀行から運転資金として五万五〇〇〇ドル(当時の為替レートで換算して一九八〇万円)の融資を受けることができた。この資金によって、SMIは、ベン・スウィートランドの「マジック・フォーミュラ・フォー・セリング」にレコードを合わせた「パーソナル・サクセス・パッケージ」を開発、製造することができた。

さらに、その後、一九六五年にも、SMIの事業拡張資金が必要となり、再び原告マイヤーがストーンに相談したところ、ストーンは、原告マイヤーの事業計画を検討したうえで、サクセス・モティベーション・インスティテュート・インクの一〇パーセントの株式の提供を受けることと引き換えに、アメリカン・ナショナル・バンクの二〇万ドル(当時の為替レートで換算して七二〇〇万円)の小切手に裏書きし、その結果SMIは、右額の融資を受けることができた。この資金によって、SMIは、原告マイヤーの書き下ろしたテキストに基づく「セールス・マネージャーズ・モティベーション・プログラム」及びジェイ・クリフトン・ウィリアムズの書き下ろした「ダイナミックス・オブ・スーパービジョン」の開発、製造等をすることができた。

原告マイヤー又はSMIは、これらの借金をいずれも二年以内に返済し、SMIの株式も買い戻した。

(2) SMIが一九六四年に作成し、その日本語版をSMIJが販売していた「シンク・アンド・グロウ・リッチ」のカセット・テープの解説書では、SMIがその内容を解説した「序」において「あなたにこれからお聞かせするのは、能力開発訓練の権威者として世界にその名を博しているナポレオン・ヒルの著書『頭を使え』のエッセンスです。」「このすばらしい本の秘密はいったいどこにあるのでしょうか?この本が多くの『自己啓発書』のなかにあって、一段と高い輝きを放っている理由はどこにあるのでしょうか?」、「あらゆる富は心の持ち方から生じるという真理―人間は自分の思考、アイデア、組み立られたプランをもって行動を開始することができるという真理を根底に持つ考え方―これがナポレオン・ヒルの思想なのです。かれは、思考というものは、ある目標が与えられ、それがその目標を実現しようとする燃えるような欲望と忍耐に結びつけられたときには、信じられないほど強力な力を発揮する、といっています。」と述べられている。

(3) 原告マイヤーは自分独自の自己啓発プログラムの開発に努め、一九六八年に「ダイナミックス・オブ・パーソナル・モティベーション」というプログラム(DPMプログラム)を完成した。SMIの代表的な商品である、DPMプログラムは、一九八三年改訂の第三版では、レッスン1からレッスン16までの構成からなり、その表題は、「『パーソナル・モティベーションの力』を活用するには」、「豊かさの世界」、「成功とは何か」、「積極的なセルフ・イメージを築こう」、「現在のわれわれは条件づけられている」、「モティベーションとは」、「積極的な心構えの涵養」、「成功の五原則」、「目標設定のモティベーション」、「あなた自身の『行動計画』」、「アファーメーションの威力」、「ビジュアリゼーションの真髄」、「優先順位によるパーソナル・モティベーション」、「モテイベーションの持続」、「成功への勇気」、「究極の目標-トータル・パースン(全人)を目指して」となっている。一九六八年作成の旧版においては、トータル・パースンという項目はないが、その他の基本的な構成は同一である。

このプログラムの特徴は、人生を健康面、精神面、教養面、経済面、家庭生活面、社会生活面の六つの面に分けるとともに、これらの各面が調和を保ちながら目標を達成してこそ、より深い満足感と平和な気持ち、幸福感が生まれるとして、このようなバランスのとれた一つの理想的な人間像をトータル・パースンとするところにある。そして、右「成功の五原則」に書かれている五原則とは、「考え方を鮮明に結晶化しよう。」、「目標を達成するための計画を立て、その達成期日を設定しよう。」、「心に描いた人生の夢に、真剣な欲望を燃やそう。」、「能力に対して『やれるのだ』という、大いなる自信を持とう。」、「障害や批判、周囲の状況にも惑わされず、人びとが何を言っても、思っても、しようとも、かまわず、心に描いた計画を、強固な意思をもって成し遂げよう。」というものであって、欲望とそれに基づく目標の設定及び計画の設定と遂行を挙げている点においては、ヒルの考え方と共通するところがある。

また、商品形態についていえば、SMI及び原告PJMJが販売する商品は、「見る」、「聞く」、「書く」という複数の感覚を繰り返し刺激することによって自己啓発に関する考え方を定着することを目的として、テキストにカセット・テープやビデオ・テープが組み合わせられ、このほか、利用者が自ら目標設定や動機づけを書き込む行動計画マニュアルが付されている点に特徴がある。

(4) SMIインターナショナル・インクは、アメリカで発行されている月刊誌サクセスに、一九八五年に九回、一九八六年に四回、一九八七年に九回、一九八八年に八回、一九八九年に四回、広告を掲載しているが、そこでは、SMIインターナショナル・インクに資料を請求し又は連絡した者には「シンク・アンド・グロウ・リッチ」のカセット・テープを無料で進呈するものとされている。

(5) 原告マイヤーは、原告SMIIの会長で、同社の株を多数有する外、SMIプログラムの販売による利益の一部をロイヤリティーとして得ている。

3  以上に認定した事実に基づいて検討する。

(一)  SMIの創設資金に関する事実及びSMIの創設目的に関する事実について

(1) 前記のとおり、SMIの創設資金は原告マイヤー自身の資金であり、ストーンが提供したものでないことは当事者間に争いがなく、また、原告マイヤーは、自己の生命保険の外交員としての経験を基にして、自己啓発に関する出版等の事業を行う目的でSMIを設立したもので、当初は、自己啓発についての書籍の内容を要約したレコードを販売することを企画したものであることは右2(二)に認定したとおりであり、SMIがナポレオン・ヒルの思想を普及する目的で創設されたものということはできない。

したがって、セールス記事広告中のSMIの創設資金に関する事実及びSMIの創設目的に関する事実は真実に反する虚偽の事実と認められる。

(2) なるほど、設立資金各一〇〇〇ドルにすぎないSMIに対して、その設立二年後に、五万五〇〇〇ドルもの銀行融資が受けられたのは、前記認定のとおり、まさにストーンの助力によるものであるし、また、設立五年後にさらに高額の二〇万ドルの銀行融資を受けることができたのも、またストーンが小切手に裏書をしてくれたためである。もっとも、この裏書の際には、ストーンはSMIの一〇パーセントの株式の提供を受け、SMIが右融資を返済した後に、右株式を原告マイヤーに買い戻させており、ストーンもそれによって利益を得ており、商取引の一種であったことは否定できない。

しかしながら、設立の二年後及び五年後に、SMIがストーンの助力によって銀行融資を得ることができ、それによって事業を拡張することが可能となったことをもって、SMIはストーンが原告マイヤーに資金提供して設立されたと表現した記事広告を掲載することは、単に正確でないというにとどまらず、虚偽の事実を陳述流布したものと認められる。

また、SMIが最初に発売したのが、ヒルの「シンク・アンド・グロウ・リッチ」を要約したレコードであり、その後も、右書籍のカセット・テープをSMIに関心をもつ者に無料で配付しているが、SMIは当初からナポレオン・ヒル以外多数の著者の自己啓発に関する図書の要約版のレコードや、原告マイヤー自身の著作にかかるレコードをも販売していたことなどからみると、ヒルの著作を販売、頒布しているのは、自己啓発に関する商品の一つとして取り扱っているものであり、SMIがヒルの思想を普及することを目的として設立されたと表現した記事広告を掲載することは虚偽の事実を陳述流布したものと認められる。

(3) セールス記事広告は前記二1のとおりであるが、その中の「SMIは、現在ナポレオン・ヒル財団の理事長であるM・クレメント・ストーンがマイヤー氏に資金提供して、ヒル博士の思想を普及させようとして創設されたものである。」との記述は、その直前部分の記載と併せて読めば、その直前の「今回のプログラム(PMAプログラム)がその(SMIプログラムの)本家本元である。」との記述を裏付けるものと、一般の読者には理解されると認められる。すなわち、「SMIは、現在ナポレオン・ヒル財団の理事長であるM・クレメント・ストーンがマイヤー氏に資金提供して、ヒル博士の思想を普及させようとして創設されたものである。」とすることによって、そのSMIが開発販売しているSMIプログラムの本家本元はナポレオン・ヒル博士のPMAプログラムであることの説明としているのである。

被告田中が代表者である被告SSIが販売するナポレオン・ヒル博士のPMAプログラムと競争関係にある同種商品であるSMIプログラムの販売を行う会社である原告SMII、SMIプログラムの開発者で、原告SMIIの会長の地位にあり、同社の株式を多数有し、SMIプログラムの販売による利益の一部をロイヤリティーとして得ている原告マイヤー及びSMIプログラムの日本における独占的販売権を与えられ、その日本語訳を代理店を通じて利用者に販売している原告PJMJにとって、「SMIは、現在ナポレオン・ヒル財団の理事長であるM・クレメント・ストーンがマイヤー氏に資金提供して、ヒル博士の思想を普及させようとして創設されたものである。」との虚偽の事実は、その内容自体のみならず、右虚偽の事実によって「SMIプログラムの本家本元はナポレオン・ヒル博士のPMAプログラムである」と示唆することによって、原告らの営業上の信用を害するものであり、このような虚偽の事実を記事広告として流布させることは、原告の営業上の利益を害するものである。

(二)  SMIの開発過程に関する事実について

(1) 前記認定によれば、SMIの中心的なプログラムであるDPMプログラムの基本的な考え方は、欲望とそれに基づぐ目標の設定、目標達成のための計画とその遂行という点において、「シンク・アンド・グロウ・リッチ」に著わされたナポレオン・ヒルの思想と共通である。

また、原告マイヤーがSMI設立以前にナポレオン・ヒルの「シンク・アンド・グロウ・リッチ」を読み、ナポレオン・ヒル・アソシエイツが発行する雑誌で、ナポレオン・ヒルの言葉が心の中に焼き付けられていると述べ、自分が影響を受けた人として、父、義父に次いでナポレオン・ヒルを挙げていること、ナポレオン・ヒル・アソシエイツをナポレオン・ヒルと共同主催していたストーンと親交があったことを併せ考えると、原告マイヤーはその思想の形成にあたって、ナポレオン・ヒルの著書から思想的な影響を受けていたものと認められる。

(2) 前記甲第二号証によれば、セールス記事広告は、ナポレオン・ヒル財団日本ディヴィジョン名義で掲載された「PROGRAM of POSITIVE MENTAL ATTITUDES」「PMAプログラム(一九八八年全面改訂)」の販売代理店募集の広告であること、その中には、ナポレオン・ヒル博士のPMAプログラムのエッセイの一部は、六〇年前から今日まで、書籍として日本はもちろんのこと、世界各地で出版されたこと、ナポレオン・ヒルは、アンドリュー・カーネギーとの約束通り、二〇年後の一九七八年に、最初のナポレオン・ヒル・プログラムを完成させたこと、この初期プログラムは、実践の場での有効性が調査され、検討が重ねられ、一九六〇年になってPMAプログラムが完成したこと、さらに検討が重ねられた結果、一九八八年には最新版PMAプログラムが完成したこと、広告の対象の、一九八八年最新版の「PMAプログラム」は、カセットテープ四〇巻、マニュアル一セット、アクション・プログラム一セット等からなるものであることが記載されており、前記二1のセールス記事広告の問題部分の「このPMAプログラムを元にした、ポール・J・マイヤーのSMIプログラムがあるが、今回のプログラムがその本家本元である。」にいう、「このPMAプログラム」が、六〇年前から出版されたナポレオン・ヒルのエッセイを指すのか、ナポレオン・ヒルが一九七八年に完成させたナポレオン・ヒル・プログラムを指すのか、一九六〇年に完成したPMAプログラムを指すのか必ずしも明確でないが、原告マイヤーのSMIプログラムが、広告対象の一九八八年最新版PMAプログラムを元にして作られたもので、PMAプログラムから分離、派生したものであることを意味する記載と了解できることが認められる。

また、前記甲第三一号証の一ないし四によれば、ベンチャー記事広告は、ナポレオン・ヒル財団日本ディヴィジョン名義で掲載された「ナポレオン・ヒル・プログラム」、具体的には、一九八八年最新版の「ナポレオン・ヒル・プログラム」の日本語版の広告であること、その中には、「ナポレオン・ヒル・プログラム」初版は、ナポレオン・ヒルが二〇年の歳月をかけて完成し、一九二八年に発行されたこと、広告の対象である一九八八年最新版の「ナポレオン・ヒル・プログラム」には四種類のプログラムが用意され、それらは、録音テープやビデオテープを含み、テープを聞き、ビデオを見ることによって学ぶものであることが記載されており、前記二2のベンチャー記事広告の問題部分の「ナポレオン・ヒル・プログラム」は、前後の文章の続き具合を注意深く読めば、ナポレオン・ヒルが二〇年かけて完成し、一九二八年に発行された「ナポレオン・ヒル・プログラム」(初版)を指し、また、同部分の「このようにナポレオン・ヒル・プログラムは様々な亜流を生み出しつつ発展してきた。」とあるのは、その直前の「日本でもヤル気と成功に関する類似プログラムとしてSMIプログラムと称するものがあるが、これもヒル博士の成功哲学の普及からスタートし、現在の中心的プログラム(DHPプログラム)も、そのもととなったアイディアはナポレオン・ヒル・プログラムからきている。」という文に続くものであって、SMIプログラムが、ナポレオン・ヒル・プログラム(初版)の生み出した様々の亜流の一つであることを意味する記載であることを了解することができること、が認められる。

しかしながら、ナポレオン・ヒルが二〇年かけて一九二八年に初版を出版したのは「ザ・ロー・オブ・サクセス」と題する書籍であることは前記三2(一)に認定したとおりであり、これを「PMAプログラムのエッセイの一部」、「ナポレオン・ヒル・プログラム」(初版)と称し、SMIプログラムについて、「PMAプログラムを元にした」、「そのもととなったアイディアはナポレオン・ヒル・プログラムからきている。」、「このようにナポレオン・ヒル・プログラムは様々な亜流を生み出しつつ発展してきた。」と記述することは、セールス記事広告がPMAプログラム一九八八年最新版の広告であり、ベンチャー記事広告が、ナポレオン・ヒル・プログラム一九八八年最新版の日本語版の広告であることを考慮すれば、些細な表現の違いということはできず、真実に反するものと認められる。また、原告マイヤーが、ナポレオン・ヒルの著書である「シンク・アンド・グロウ・リッチ」を読み、ナポレオン・ヒルの著書から思想的な影響を受けたことは、前記三2(二)及び右(1)に認定したとおりであるが、原告マイヤーは、SMIプログラムの内容となる思想形成に当たり、成功の哲学、自己啓発に関する五〇冊以上の著書を読んで思考を進めたのであり、その思想内容も、人生を六つの面に分け、これらの各面が調和を保ちながら目標を達成してこそ、より深い満足感と幸福感が生まれるとして、このようなバランスのとれた一つの理想的な人間像をトータル・パースンとするところに特徴があることも前記三2(二)に認定したとおりであり、SMIプログラムについて、「このPMAプログラムを元にした、ポール・J・マイヤーのSMIプログラムがあるが、今回のプログラムがその本家本元である。」、「そのもととなったアイディアは、ナポレオン・ヒル・プログラムからきている。」、「このようにナポレオン・ヒル・プログラムは様々な亜流を生み出しつつ発展して来た。」と記述することは、原告マイヤーが影響を受けたのが「PMAプログラム」又は「ナポレオン・ヒル・プログラム」というものでないという点においても、また、SMIプログラムに盛り込まれた原告マイヤーの思想が、他の著者の思想と並んでナポレオン・ヒルの思想の影響を受けているとはいえるとしても、「PMAプログラムを元にした」、「今回のプログラムが本家本元である。」、「ナポレオン・ヒル・プログラムからきている。」とか、「ナポレオン・ヒル・プログラムの亜流」とはいえない点においても虚偽の事実と認められる。

そして、このような虚偽の事実は、原告らの営業上の信用を害するものであり、このような虚偽事実を記事広告にして流布させることは、原告らの営業上の利益を害するものである。

(3) 被告らは、SMIプログラムの哲学は、ナポレオン・ヒルの著書である「ロー・オブ・サクセス」や「シンク・アンド・グロウ・リッチ」の思想と共通であると主張するが、弁論の全趣旨によって真正に成立したものと認められる甲第五三号証によれば、人生において成功するための心構え、方法、人生訓については、ナポレオン・ヒルの思想と共通するものは古来多くの著書に述べられていることであり、その点においてSMIプログラムに著わされた原告マイヤーの思想にナポレオン・ヒルの思想と共通するものがあることをもって、SMIプログラムがPMAプログラムを元にしたものである、あるいは、もととなったアイディアはナポレオン・ヒル・プログラムからきているとし、さらに、ナポレオン・ヒルの亜流であるとか、本家本元はPMAプログラムであるとすることはできない。

四  差止請求について

成立に争いのない甲第六〇号証ないし甲第六三号証、甲第八六号証、被告本人兼被告代表者田中米藏の尋問の結果によれば、被告らは、前記二の陳述流布行為を反省することなく、原告らを挑発するような表現の文書を原告PJMJヘファックスで送付していることが認められるから、被告らが前記二のような陳述流布行為を繰り返すおそれがあるものと認められ、別紙虚偽事実目録記載の趣旨の事実を広告し、右事実を記載した書籍若しくは雑誌を発行し、右事実を記載した文書を配布、送付若しくは展示し、又は、右事実を口頭で伝達して、右事実を陳述流布することの差止めを求める原告らの請求は理由がある。

五  故意、過失について

前記甲第八六号証、弁論の全趣旨によって真正に成立したものと認められる甲第一〇三号証並びに前記甲第八六号証及び甲第一〇三号証によって真正に成立したものと認められる甲第二一号証ないし甲第二三号証、甲第一〇二号証によれば、セールス記事広告を含む月刊誌セールス平成元年六月号掲載の広告は、記事風の広告であり、株式会社ダイヤモンドセールス編集企画が被告SSIに掲載を勧誘して掲載されたものであるが、記事の内容は、月刊誌セールス編集部の前田孝夫が被告田中を事務所に訪ねて、同人からナポレオン・ヒル・プログラムについての説明とどのような感じの広告にして欲しいかの指示を聞き、資料として「第一期販売加盟店募集要領」を受け取り、被告田中の説明、指示と、同被告から提供を受けた資料に基づいて原稿にしたものであること、右原稿は被告田中が内容、体裁を承諾の上、記事広告として掲載されたものであることが認めちれる。

また、前記甲第一〇三号証、これによって真正に成立したものと認められる甲第九二号証によれば、ベンチャー記事広告を含む日経ベンチャー一九九〇年九月号掲載の広告も、記事風の広告であり、広告代理店の株式会社東京宣広の扱いで掲載されたものであるが、記事の内容は、広告制作会社である日辰広告株式会社の社員福本高明が被告田中を事務所に訪ねてどのような広告にするか打合せをし、同被告から広告の内容となる話を聞き、資料として、「思考は現実化する」Ⅰ及びⅡ、「積極的心構えがあなたの人生を変える」の三冊の本を受け取り、被告田中の話や右の資料を利用して原稿にまとめたものであること、右原稿を、東京宣広を通じて被告田中に見せたところ、被告田中は大幅な加筆、訂正をしたが、ベンチャー記事広告部分もその際被告田中が加筆したものであること、右のような加筆、訂正に従って修正された原稿をワープロで打ち直し、レイアウトをし、掲載する写真を決めて版下が作成され、この版下の段階で、本文を含めて被告田中の確認を得、更に、その後の色刷りの色校正原稿も被告田中の確認を得て、記事広告として掲載されたものであることが認められる。

右事実によれば、セールス記事広告及びベンチャー記事広告共に、被告SSIの代表者でもある被告田中の意思に基づいて掲載されたものであり、記事広告の掲載自体は故意によるものであり、前記認定のような虚偽の事実を掲載したことについては、少なくとも、営業上の競争関係にある原告らの信用を害する事実について、その真実性の調査を怠った過失があるものと認められる。

被告らは本件記事広告の内容を真実と考える相当の理由があったと主張するが、右主張を是認する事実を認めるに足りる証拠はない。

六  損害について

1  逸失利益

前記甲第八六号証、弁論の全趣旨によって真正に成立したものと認められる甲第九八号証中には、原告PJMJにおける毎年一月から一二月までのSMIプログラムの売上高は、昭和六〇年約二七億円、昭和六一年約三八億円、昭和六二年約四一億円、昭和六三年約四五億円、平成元年約六一億円、平成二年約八一億円、平成三年約八七億円、平成四年約六一億円であり、昭和六〇年から平成二年までの前年の売上高と比較した上昇率の平均は二五・四パーセントであるから、そのまま売上高が上昇すれば、平成三年には約一〇二億円、平成四年には約一二八億円の売上高が見込まれた旨の部分がある。しかし、右各年の現実のSMIプログラムの売上高が右金額であったことを右各書証のみから直ちに認定することはできない。また、前記甲第九八号証によって認められる、SMIプログラムの主な三種類の希望小売価格は、平成元年までが二七万六〇〇〇円のものが二種、五六万円のものが一種であり、平成二年からは消費税の施行に伴い二八万五〇〇〇円及び五七万七〇〇〇円に値上げされたことが認められ、いずれにしても相当に高価なものであること、SMIプログラムは、自己啓発あるいは人生の成功の哲学と称してはいるが、我国の一般社会からは、真にそうか否かは別として、単なる金銭的成功の方法論と受け取られかねず、前記の価格ともあいまって、購入が期待できる客層は限られているものと考えられ、売上げが年々上昇する必然性はないこと、当裁判所に顕著な、我国の経済一般は、昭和六一年後半から平成二年頃まで顕著な好況が続き、個人の高級商品の消費も高まったが、平成三年以降は、バブルの崩壊といわれる景気の低迷が始まり、個人の高級商品の消費も低下したこと等を併せ考えると、平成二年までのSMIプログラムの売上高の上昇率が平成三年以後に続かなかったこと、平成三年、平成四年の売上げが平成二年より低下したとしても、その全部あるいは一定の割合が、被告らの虚偽事実の陳述流布に起因するものと認定することもできず、前記各証拠はたやすく信用できない。

また、前記甲第八六号証中には、被告らから、本件記事広告を利用して、SMIは偽物で、ナポレオン・ヒル・プログラムが本物であるから、こちらの方のビジネスをやったらどうかとの勧誘を受けて、原告PJMJの代理店やセールスマンをやめた者が一四、五件あり、SMIプログラムの販売契約がキャンセルになったものは数十件ある旨の部分があり、弁論の全趣旨によって真正に成立したものと認められる甲第一一九号証にも同趣旨の記載があるが、代理店やセールスマンが従前の契約先や勤務先との取引をやめて、同業他者に鞍替えすることは少なくないことであり、その原因としては、取扱い商品の内容、イメージ以外にも、利益率、リベート、ノルマ等の取引条件の有利不利、総代理店の代理店に対する対応の良否、人間関係、代理店主やセールスマンの職業観、人生観が大きな要素をなすものと考えられ、更に、SMIプログラムのように比較的高価であり、かつ、それを利用するには、購入者にも、学習を続ける等相当の努力が要求されるものであり、自己啓発、成功の哲学という耳に入りやすい惹句に惹かれて購入契約をしたものの、間もなく使いこなせないことに気付いたり、内容が気に入らないことに気付き解約する購入者も少なくないものと認められるから、前記のように代理店やセールスマンをやめた者、販売契約がキャンセルになったものがあるからといって、これを直ちに、被告らの虚偽の陳述によるものと認めることはできない。

2  無形損害

前記一の事実、前記甲第七号証ないし甲第九号証、甲第一八号証、甲第一九号証、甲第五二号証、甲第八六号証、甲第九八号証、成立に争いのない甲第一〇号証ないし甲第一六号証、甲第二〇号証、前記甲第八六号証によって真正に成立したものと認められる甲第三〇号証及び弁論の全趣旨によれば、SMIプログラムの旧版は、我国では、昭和三九年頃からSMIJが総代理店となって販売され、売上げを伸ばしつつあったこと、原告SMIIは原告マイヤーが一九七七年に設立したテキサス州法人で、原告マイヤーの開発したSMIプログラムを各国語に翻訳して販売する会社であり、原告PJMJは、昭和五九年以降、SMIIからSMIプログラムを日本において販売する権利を与えられた総代理店として、SMIプログラム(新版)を日本語に翻訳し、これを日本全国の代理店に卸売りして、各代理店が利用者に販売していること、原告マイヤーは、昭和五二年頃、朝日新聞社の著名記者の「八〇年代世界企業の巨人経営者たち」という連続インタビュー企画の対象者の一人として、インタビュー記事が週刊朝日に掲載され、原告マイヤーの生い立ちや、事業内容、SMIプログラムなどが紹介され、その記事は、後に原告マイヤーを含む一〇名の世界的大企業の経営者に対するインタビューをまとめた書籍として、昭和五二年及び昭和六〇年に出版されたこと、原告マイヤーは、昭和六一年六月頃に来日した際にも、毎日新聞、朝日新聞、産経新聞の全国紙や、講演会が開催された地元の新聞、週刊現代、月刊公論、月刊ハンター、世界画報、ビッグマン等の雑誌で、その略歴や思想、SMIプログラムが紹介されていたことが認められ、前記認定の本件記事広告によって、失われた得べかりし利益は具体的に算定できないものの、原告らがそれぞれに営業上の信用を毀損されたものと認めるのが相当であり、その損害を償うに足りる金額としては、原告マイヤーについて一〇〇万円、原告SMIIについて五〇万円、原告PJMJについて一〇〇万円が相当と認められ、これを超える無形損害があったことを認めるに足りる証拠はない。

3  弁護士費用

原告らが原告代理人らに本件訴訟の提起維持を委任し、原告代理人らが、本件訴訟を提起、追行していることは、訴訟上明らかな事実であり、このことと、本件訴訟の内容、差止請求、謝罪広告請求を含む訴訟の結果を考慮すれば、原告らが原告代理人らに支払う弁護士費用(代理人が作成した証拠の作成費用を含む。)の内、原告マイヤーにつき三〇万円、原告SMIIにつき一五万円、原告PJMJにつき三〇万円の限度で、被告らの不正競争行為と因果関係があるものと認められ、これを超える損害は認められない。

原告らは、裁判所に提出する証拠を作製するために第三者に調査、鑑定を依頼した費用並びに代理店、ユーザー、見込客に事情を説明するための通信費、会場設営費を弁護士費用と合わせて請求するが、それらについては、それぞれ別個に、その支出の存在、相当因果関係を認定すべきところ、これを具体的に認定するに足りる証拠はない。

4  合計

右2、3認定の損害金の合計は、原告マイヤーについて金一三〇万円、原告SMIIについて金六五万円、原告PJMJについて金一三〇万円となる。

七  謝罪広告について

成立に争いのない甲第一一八号証、甲第一二一号証によれば、月刊誌セールスは平成三年一二月号で終刊となり、平成四年一月号からは、姉妹誌であった月刊「セールスマネージャー」に統合されたこと、「セールスマネージャー」誌の平成四年当時の発行部数は三万部であったことが認められ、本件セールスの発行部数もその程度以下であったものと推認される。また、本件セールスの記事広告の末尾のナポレオン・ヒル財団日本ディヴィジョンの名称、住所、電話番号を削除した別刷りに本件セールスの表紙をつけ、裏表紙に「この小冊子は、(株)ダイヤモンド社「月刊セールス一九八九年六月号」から抜粋したものです。」との説明等をつけ、記事広告として掲載されたものの別刷りであることをわかりにくくした小冊子を約一〇〇〇部印刷し、これを原告PJMJの約三五の代理店や加盟店希望者、見込客等に送付したものであることは前記二のとおりである。

更に、成立について当事者間に争いのない甲第一二二号証によれば、平成四年当時の日経ベンチャーの発行部数は約六万九〇〇〇部であったことが認められる。

そして、前記甲第八六号証、甲第一一九号証によれば、本件記事広告に接した代理店、セールスマン、顧客等から記事内容の真偽について問合わせがあったことが認められる。

しかし、本件記事広告は、それぞれ四頁又は五頁にわたり記事風の文章が続く中の一〇行前後の部分であって、それ自体としては長い文章の中の一部で目立つものではなく、記事と異なり記事広告であることから必ずしも全部の読者が読むとは限らず、本件記事広告を通読した者のうちでも本件記事部分を記憶している者は、原告の代理店、従業員等を除けば少ないと推認されること、差止請求及び損害賠償請求が認容されることを考慮すれば、現在では、原告らの受けた信用毀損を原告ら主張の謝罪広告をもって信用を回復する必要性は乏しいものと認められ、謝罪広告請求は理由がない。

八  民法に基づく請求について

被告らの前記二、三の行為を原告らに対する名誉毀損と解しても、原告らの損害は前記六に認定判断した額を超えるものとは認められず、また、前記七に認定判断したところと同様の理由によって、謝罪広告請求も理由がないと認められるから、その余の点について検討するまでもなく、原告らの民法七〇九条、七二三条に基づく請求は理由がない。

九  よって、原告らの主位的請求は、主文第一項のとおりの虚偽事実の陳述流布の差止め並びに損害賠償金として、被告らが各自、原告マイヤーに対し金一三〇万円、原告SMIIに対し金六五万円、原告PJMJに対し金一三〇万円及びこれに対する最も遅い不正競争行為の日以後と認められる平成二年九月一日から、各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるのでこれを認容し、その余の請求は理由がないのでいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言について同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西田美昭 裁判官 大須賀滋 裁判官宍戸充は転補により署名押印することができない。 裁判長裁判官 西田美昭)

別紙(一)

謝罪広告

株式会社エス・エス・アイ(以下「弊社」と申します。)、及び私、田中孝顕こと田中米蔵(以下、弊社及び私を併せて「私共」と申します。)は、株式会社ダイヤモンドセルース編集企画発行の「セールス」平成元年六月号、八二頁に「注*二〇数年前から日本では、このPMAプログラムを元にした、ポール・J・マイヤーのSMIプログラムがあるが、今回のプログラムがその本家本元である。SMIは、現在ナポレオン・ヒル財団の理事長であるM(原文のまま)・クレメント・ストーンがマイヤー氏に資金提供して、ヒル博士の思想を普及させようとして創設されたものである。」との広告記事を掲載させました。

しかし、右の広告記事の内容は、以下のとおりいずれも全くの虚偽であり、ポール・J・マイヤー氏(以下「マイヤー氏」と申します。)の名誉及び貴社らの営業上の信用を害するものであることを認めます。

第一に、SMIプログラムはPMAプログラムを元にしたものではなく、両者は全く関係がありません。従って、PMAプログラムが本家本元である訳ではなく、SMIプログラムは独立した商品に他なりません。

第二に、マイヤー氏は、自らの資金を以てSMIの事業の中核であったサクセス・モティベーション・インスティテュート・インク(現在のエスエムアイ・インターナショナル・インコーポレーテッドの旧商号です。以下「SMI・INC」と申します。)を設立しております。SMI・INCの設立はストーンの提供した資金によるものではありません。

第三に、マイヤー氏は、自らが開発したプログラムを販売するためにSMI・INCを創設したのであって、ヒル博士の思想を普及させることは何ら目的ではありませんでした。

私共は、右広告記事に、PMAプログラムとは何の関係もないSMIプログラムをとりあげて、PMAプログラムが本家本元であるかの如く記載して、SMI・INCの創設が競合商品の販売の主宰者の資金提供によったものでその設立目的が競合商品の基礎となる思想の普及にあったとの虚偽の事実を付け加えました。これによって、私共は、マイヤー氏が自らSMI・INCを自己の資金で自己の創り出した自己啓発プログラムを販売すべく創設して同プログラムを貴社らを通じて販売している、という事実を完全に否定し、マイヤー氏の社会的評価を下落させ、以てマイヤー氏の名誉を著しく毀損致しました。

もとより、マイヤー氏は長年に亘る我国における実績からも、数多くの書籍、雑誌等で取り扱われ、高い社会的評価を受けてきております。

この度、私共がマイヤー氏の名誉を右のように傷つけ、貴社らの販売する商品の創案者たるマイヤー氏の名誉を害する虚偽の陳述を流布したことによって、貴社らに営業上多大の迷惑をかけ、貴社らの得意先、代理店等関係者等に誤解を与えたことは誠に申し訳ありません。私共は今後、絶対に、虚偽の事実を陳述したり、誤解を招く表現を含む文書を流布したりすることはしないことを誓うと共に、その他いかなる方法を以てしてもマイヤー氏及び貴社らの名誉、信用を害しないことを誓います。私共は貴殿及び貴社らの営業上の信用回復のために、ここに謝罪の意を表明致します。

年 月 日

株式会社エス・エス・アイ

代表取締役 田中米蔵

田中孝顕こと 田中米蔵

ポール・ジェイ・マイヤー 殿

サクセス モチベーション インターナショナル

インコーポレーテッド

右代表者社長 ジョー・イー・バクスター・シニア 殿

ピー・ジェイ・エム・ジャパン株式会社

右代表取締役 有田平殿

備考、掲載条件

大きさ 一ページ四段組み(一行の字数一七字、一段の行数三〇行)、

一二級文字

印刷 一色オフセット

掲載場所 雑誌記事中

業上多大の迷惑をかけ、貴社らの得意先、代理店等関係者等に誤解を与えたことは誠に申し訳ありません。私共は今後、絶対に、虚偽の事実を陳述したり、誤解を招く表現を含む文書を流布したりすることはしないことを誓うと共に、その他いかなる方法を以てしてもマイヤー氏及び貴社らの名誉、信用を害しないことを誓います。私共は貴殿及び貴社らの営業上の信用回復のために、ここに謝罪の意を表明致します。

年 月 日

株式会社エス・エス・アイ

代表取締役 田中米蔵

田中孝顕こと 田中米蔵

ポール・ジェイ・マイヤー 殿

サクセス モチベーション インターナショナル

インコーポレーテッド

右代表者社長 ジョー・イー・バクスター・シニア 殿

ピー・ジェイ・エム・ジャパン株式会社

右代表取締役 有田平殿

備考、掲載条件

大きさ 普通版一ページ三段組み(一段の行数四三行、一行の字数一七字)、一二級文字

印刷 白黒オフセット

別紙(三)

謝罪広告

株式会社エス・エス・アイ(以下「弊社」と申します。)、及び私、田中孝顕こと田中米蔵(以下、弊社及び私を併せて「私共」と申します。)は、株式会社日経ビーピt発行の「日経ベンチャー」平成二年九月号一五九頁から一六〇頁にかけて、「オグ・マンディーノも、他の類似のプログラムはこのナポレオン・ヒル・プログラムが土台となっている、と述べている。事実、日本でもヤル気と成功に関する類似プログラムとしてSMIプログラムと称するものがあるが、これもヒル博士の成功哲学の普及からスタートし、現在の中心的プログラム(DHPプログラム)(原文のまま)も、そのもととなったアイディアはナポレオン・ヒル・プログラムから来ている。このようにナポレオン・ヒル・プログラムは様々な亜流を生み出しつつ発展してきた。」との広告記事を掲載させ、株式会社ダイヤモンドセールス編集企画発行の「セールス」平成元年六月号、八二頁に「注*二〇数年前から日本では、このPMAプログラムを元にした、ポール・J・マイヤーのSMIプログラムがあるが、今回のプログラムがその本家本元である。SMIは、現在ナポレオン・ヒル財団の理事長であるM(原文のまま)・クレメント・ストーンがマイヤー氏に資金提供して、ヒル博士の思想を普及させようとして創設されたものである。」との広告記事を掲載させました。

しかし、右の広告記事の内容は、以下のとおりいずれも全くの虚偽であり、ポール・J・マイヤー氏(以下「マイヤー氏」と申します。)の名誉及び貴社らの営業上の信用を害するものであることを認めます。

第一に、SMIプログラムはヒル博士の成功哲学とは何の関係もなく、またナポレオン・ヒル・プログラムを土台にしたものではありません。

第二に、SMIプログラムの中心的プログラムはDHPプログラムではなく、DPMプログラムですが、そのアイデアはマイヤー氏独自の創案によるものであり、ナポレオン・ヒル・プログラムから来たものではありません。従って、PMAプログラムが本家本元である訳ではなく、SMIプログラムは独立した商品に他なりません。

第三に、マイヤー氏は、自らの資金を以てSMIの事業の中核であったサクセス・モティベーション・インスティテュート・インク(現在のエスエムアイ・インターナショナル・インコーポレーテッドの旧商号です。以下「SMI・INC」と申します。)を設立しております。SMI・INCの設立はストーンの提供した資金によるものではありません。

第四に、マイヤー氏は、自らが開発したプログラムを販売するためにSMI・INCを創設したのであって、ヒル博士の思想を普及させることは何ら目的ではありませんでした。

私共は、右広告記事にナポレオン・ヒルやナポレオン・ヒル・プログラムとは何の関係もないSMIプログラムをとりあげて、恰も弊社が扱う商品を土台として、または弊社が扱う商品を元としてSMIプログラムが作られたかの如き虚偽の事実を付け加え、あるいはPMAプログラムとは何の関係もないSMIプログラムをとりあげて、PMAプログラムが本家本元であるかの如く記載して、SMI・INCの創設が競合商品の販売の主宰者の資金提供によったものでその設立目的が競合商品の基礎となる思想の普及にあったとの虚偽の事実を付け加えてしまったものに相違ありません。これによりマイヤー氏の社会的評価を下落させ、以てマイヤー氏の名誉を著しく毀損致しました。

もとより、マイヤー氏は長年に亘る我国における実績からも、数多くの書籍、雑誌等で取り扱われ、高い社会的評価を受けてきております。

この度、私共がマイヤー氏の名誉を右のように傷つけ、貴社らの販売する商品の創案者たるマイヤー氏の名誉を害する虚偽の陳述を流布したことによって、貴社らに営業上多大の迷惑をかけ、貴社らの得意先、代理店等関係者等に誤解を与えたことは誠に申し訳ありません。私共は今後、絶対に、虚偽の事実を陳述したり、誤解を招く表現を含む文書を流布したりすることはしないことを誓うと共に、その他いかなる方法を以てしてもマイヤー氏及び貴社らの名誉、信用を害しないことを誓います。私共は貴殿及び貴社らの営業上の信用回復のために、ここに謝罪の意を表明致します。

年 月 日

株式会社エス・エス・アイ

代表取締役 田中米蔵

田中孝顕こと 田中米蔵

ポール・ジェイ・マイヤー 殿

サクセス モチベーション インターナショナル

インコーポレーテッド

右代表者社長 ジョー・イー・バクスター・シニア 殿

ピー・ジェイ・エム・ジャパン株式会社

右代表取締役 有田平殿

備考、掲載条件

日経新聞

大きさ 二段ぬき天地二九字どり、タイトル二倍文字、本文及び掲載日一倍文字、会社名及び代表者名一・五倍文字

掲載場所 朝刊記事下

訪販ニュース

大きさ 一倍文字

虚偽事実目録

一 SMIは、クレメント・ストーンが原告ポール・ジェイ・マイヤーに資金提供して、ナポレオン・ヒルの思想を普及するために設立された。

一 原告らの自己啓発プログラムはナポレオン・ヒルのプログラムを元にして作られた。

一 原告らの自己啓発プログラムはナポレオン・ヒルのプログラムが土台になっている。

一 原告らの自己啓発プログラムはそのもととなったアイディアがナポレオン・ヒルのプログラムから来ている。

一 ナポレオン・ヒルのプログラムは原告らの自己啓発プログラムの本家本元である。

一 原告らの自己啓発プログラムはナポレオン・ヒルのプログラムの亜流である。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例